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不整脈の一つでありながら、脳梗塞や心不全の原因となる恐ろしい病気
「心房細動」は本来規則正しく打つはずの脈が全くばらばらに打つ不整脈です。心臓は電気のエネルギーで打つ臓器ですが、心房細動時は心臓の上半分、すなわち心房の中を電気が走り回ることにより心房が震えたような状態となっています。このため心房の本来の収縮性が失われ、心房内で血流がよどみ、血の塊(血栓)が形成されることがあります。これが血流に乗り脳に飛ぶと血管を閉塞し重篤な脳梗塞を発症するのです。また、心房細動時には極端な頻脈が持続することがあり、心臓が疲労し心不全を発症する場合があります。
心房細動が発生すると多くは動悸や息切れといった自覚症状を感じますが、2~3割の患者さんは無症状であると言われています。この無症状の方を含めると後期高齢者の方においては5%程度に心房細動を有しているとも言われており、今後の社会的にも最も注目される疾患です。
心房細動は進行する病気でもあります。当初は生じる頻度も少なく、生じても短時間で自然に止まりますが、次第に頻度が増え、止まりにくくなり最終的には慢性化します。
症状がないため気づかないうちに心房細動が進行し、脳梗塞になって初めて心房細動であったことに気づくケースもあります。
定期的検診などにより、積極的に心房細動を発見する心構えが必要と言えます。
心房細動の治療法には「3本の柱」があります。
抗凝固療法
心房細動の合併症である脳梗塞を防ぐために血液を固まりにくくするお薬を飲んで、心臓に血栓ができるのを防ぐ治療です。特に、75歳以上の方、高血圧や糖尿病を合併している方、心不全を有する方、脳梗塞の既往がある方は服用が勧められます。以前はワルファリンという薬剤のみで食事制限などもありましたが、最近では新薬も登場しており治療の幅が広がりました。
抗不整脈薬治療
心房細動の発生を「抑え」て頻度を少なくしたり、発生した時にできるだけ早く止めたり、極端に脈の数が増えないようにしたりするのに使用します。発作の頻度が多い場合には定期的に内服して発作を予防するようにしますが、頻度が少ない場合は屯用で使用する場合もあります。内服薬で停止しない場合には静脈注射で発作の停止を試みることもあります。
カテーテルアブレーション
足の付け根(そけい部)からカテーテルを挿入し、心房細動の根本的原因である肺静脈からの異常な電気興奮が心臓に入ってこない様に遮断することにより心房細動を「治す」治療法です。最近では根治を目指して本治療を希望される方が増えています。詳細は別項をご参照ください。
心房細動の原因となる異常な電気信号を遮断する
心房細動の根本的原因は何か?そのほとんどは、心臓と肺の間にある血管(肺静脈)から発生する異常な電気信号とされています。肺静脈内から突如一分間に500回あるいはそれ以上の電気興奮が発生し一気に心臓に流入することにより心房を痙攣状態に陥れるのです。
心房細動を根治させるためにはこの異常な電気信号の流入を遮断する必要があります。カテーテルを使用して肺静脈の入り口周囲を電気的に焼灼する、あるいは冷凍させることにより電気を遮断する方法が肺静脈隔離アブレーション治療です。
一回のアブレーションにより心房細動が根治される率はまだ心房細動が慢性化していない「発作性」心房細動の方で80-85%程度、心房細動が慢性化してしまった「持続性」心房細動では、その期間が長くなるほど成功率は下がってしまいます。特に無症状の方は治療のタイミングを逸してしまいやすいと言えます。心房細動根治のチャンスを逃さないように是非専門医にご相談ください。
高周波カテーテルアブレーション
左心房に挿入した一本の治療用カテーテルを術者が操作し、肺静脈の入り口周囲を1ポイントずつ高周波電流を通電し円周状に「焼灼」し電流を遮断する方法です。
冷凍凝固アブレーション
バルーン状のカテーテルを肺静脈の入り口にはめ込み、亜酸化窒素ガスを注入することにより「急速冷凍」し電流を遮断する方法です。
どちらを使用するかは、心房細動の状態(発作性か持続性かなど)や、肺静脈の形態などにより判断し決定する必要があります。
発作性心房細動に対する成功率は両方法においてほぼ同等とされています。
※冷凍凝固アブレーションの模式図は日本メドトロニック社提供