くすりの窓 2004.5

過ごしやすい季節になりましたね。気温もぐんぐんあがって夏の気配が感じられる今日このごろです。しかし、いくら気持ちがよくても薄着のままで日差しをあびるのは要注意ですよ!
というわけで、今回のくすりの窓では紫外線について触れてみたいと思います。

紫外線とは?

紫外線とは太陽から放射される電磁波(光の一種)です。赤や青色に見える可視光線も電磁波の一種ですが、紫外線は紫色の光より波長が短く、肉眼では見えません。紫外線は3つの種類に分けることができます。

UV-A 長波長紫外線
(320〜400nm)
地表に届く
UV-B 中波長紫外線
(280〜320nm)
一部はオゾン層に吸収され、一部が地表に届く
UV-C 短波長紫外線
(280nm以下)
オゾン層に吸収され、地表に届かない

波長が短いほど皮膚への影響は強くなりますが、もっとも肌に悪影響を与えるUV−C、そしてUV−Bの一部は、大気のオゾン層に吸収されて、地表に届きません。つまり地表に届いて肌に影響を及ぼす紫外線はUV−A、UV−Bということになります。オゾン層が地球に降り注ぐ紫外線を吸収し、わたしたちを保護しています。

紫外線A(UV−A)……サンタン(黒あるいは褐色に色素沈着した日焼けの状態)を起こします。雲やガラスも通り抜け、皮膚への浸透性が強く、真皮まで到達し、真皮にある肌の弾力を保つ繊維質(エラスチンコラーゲンヒアルロン酸など)を破壊してしまうため、しわやたるみの原因となります。
紫外線B(UV−B)……サンバーン(赤く炎症を起こした日焼けの状態)を起こします。ガラスなどにある程度吸収され、皮膚への浸透度は、UVAほど強くなく、主に表皮に到達し、表皮にあるメラノサイトを活性化し、しみの原因であるメラニンを大量に作り出します。

曇りの日でも、晴れの日の60%以上の紫外線が降り注いでいます。(雨の日でも20%程度)また、真夏よりも今の時期のほうが紫外線が強いと言われています。地上に届く紫外線の強さは、地球から太陽までの距離ではなく、太陽光線が通る大気の層の厚さによって決まります。通る大気の層が厚いほど紫外線が吸収され、地表に届く紫外線量が減るのです。一日の内では、太陽が真上にくるお昼頃が一番強いです。

紫外線の影響

では、紫外線を大量にあびてしまったらどうなるのでしょう。

●日焼け

まず、日焼け。日焼けで肌が黒くなるのは、皮膚の中にあるメラノサイトという色素細胞が、紫外線の働きでメラニンという黒い色素を作るからです。日焼けで皮膚が赤くなり、炎症を起こすのは UV-Bのせいです。炎症が治まった後にはメラノサイト(色素細胞)が増えてくるので、数日経ってから皮膚の色が黒くなるのもUV-Bの効果です。シミ、ソバカスの原因でもあります。皮膚の DNA (遺伝子) を傷つけ、後に皮膚癌を生じさせるのも主にUV-Bの作用と考えられています。日光を浴びてすぐに黒くなる人もいますが、それを引き起こすのがUV-Aです。Bと同様、シミ、ソバカスを悪化させます。

パソコンの画面や蛍光灯の光も、太陽光線ほどではないにしてもUV−Aの波長を発しています。長時間浴びていると、この波長からお肌を守ろうとしてメラニンが作り出されて、お肌がくすみ、日やけに似た症状がおこります。

●白内障

長期間紫外線をあびることで目のなかの水晶体が白く濁って視力が低下することがあります。これは白内障とよばれる病気で、紫外線との関係が強いと考えられています。

●免疫の低下

細菌やウィルス・病気からからだを守る免疫機能は、紫外線の影響で働きが低下します。すると、体調をくずしたり風邪を引くなど、健康を損ねる原因にもなります。また、紫外線は標高が高いほど強くなります。登山隊などがしっかり日焼け止めをしているのは、紫外線によるダメージで疲れやすくなったり、体調を崩すのを防ぐためなのです。

●ビタミンDの合成

皮膚は紫外線(特にUV−B)を受け、ビタミンDを合成する機能をもっているので、骨形成の盛んな子供には日光浴が大切だとされ、母子手帳にも日光浴の記載がありました。しかし今では食品から十分なビタミンDが摂取できることがわかり、日光浴はしなくてもよいとされています。また、骨粗しょう症には、バランスのよい食事と適度な運動が効果的とされています。

●皮膚ガン

日焼けで赤くなった皮膚の遺伝子 (DNA) にはたくさんの傷がついています。これらの傷は修復酵素によって治されるのですが、長年にわたり遺伝子を傷つけすぎると、傷の修復が追いつかなくなります。遺伝子の傷が治されないと突然変異が起きるようになり、その結果皮膚に癌細胞が生じてくることになります。メラニンと呼ばれる皮膚の色素は紫外線に対するバリアーの働きをします。ですから肌の色が白い白人の方が紫外線に弱いことになります。日本人でも色白の人で、日焼け後に赤くなるだけで色が黒くならないタイプの肌を持つ人がいます。このような人は色黒の人より、同じ様に紫外線を浴びても DNA の傷の量がずっと多くなりますので、より注意して日焼けを防ぐ必要があります。

紫外線を防止するには

何よりもまず、日光を浴びないようにすることが肝心です。外出時は帽子やサングラス、日焼け止めを塗るなどの対策が必要です。ゴミだしや洗濯物をほす5〜10分でも確実に紫外線を浴びていますのでご注意を。

紫外線の被害が大きいオーストラリアでは、親が子どもに日焼け止めクリームを塗ることが法律で義務づけられています。18歳までに生涯にあびる紫外線量の約半分をあびているといわれており、子供のうちからの紫外線対策が重要であると考えられているのです。

日焼け止めについて

その主成分は、紫外線を吸収する紫外線吸収剤と紫外線を反射、散乱させることによって皮膚に達する紫外線の量を少なくする紫外線散乱剤で適宜組み合わせて作られています。紫外線吸収剤はUVBを吸収するものがほとんどです。紫外線錯乱剤は、おもに物理的に紫外線を散乱させます。紫外線以外にも可視光線も散乱させるため白く見えます。最近では、散乱効果が高く白さが目立たないようなのびのよいものが開発されています。散乱させる紫外線の波長に選択性はあまりなく、紫外線全体を散乱させるUVA防止剤としても有効で広く使用されています。

皮膚に対する安全性は無機粉体である紫外線散乱剤の方が高く、紫外線吸収剤は有機化学物質のため接触皮膚炎や光接触性皮膚炎のアレルギー反応を起こすという報告があります。ベビー用や敏感肌用には紫外線吸収剤を含まないノンケミカル商品が多い理由はここにあります。

日焼け止めの使い方

日常生活の紫外線対策は、SPF10 前後あれば十分です。外で軽くテニスというような、屋外での軽いスポーツ・レジャーの場合はSPF30。本格的なスポーツをするときや、リゾート地ではSPF50 程度が目安です。 南の島に行く際や、紫外線に敏感な方は 50+をお使いください。敏感肌の方には、紫外線吸収剤の入っていない日やけ止めや乳液、乳幼児にはベビー用の日やけ止めをおすすめします。つける量はたっぷりと。頬や額など日光がよくあたる部分には二度付けします。顔だけではなく首や耳なども忘れずに。水にぬれたりする場合はこまめに塗りなおしましょう。

???日焼け止め用語???

SPF ・・・Sun Protection Factor(サンケア指数)の略。UVBの防止効果を表す数値です。SPF50+が日本化粧品工業連合会の統一基準で定められた上限値です。

PA・・・Protection Grade of UVAの略。UVAをどのくらい防止できるかという目安。3段階に区分され、効果の度合いを「+」の数で表示しています。

日焼けしてしまったら

日焼けは一種のやけど状態です。赤く炎症を起こしていたら、ぬれタオルなどでやさしく冷やしましょう。お風呂はぬるめにして、肌を刺激しないようにしましょう。日焼けした後は体の抵抗力が落ちていますので、十分に休養し、抵抗力をつける食品やサプリメント等を摂取しましょう。日焼け後の皮膚は、角質層の水分量は低下し、遊離アミノ酸が減少してかさつきやすくなっています。炎症がおさまった後も化粧水や乳液で水分、油分を十分補う必要があります。
症状のひどい時は以下のような薬剤(外用剤)があります。

非ステロイド性消炎鎮痛剤

日焼けによる炎症はプロスタグランジンによって引き起こされています。非ステロイド性消炎鎮痛剤の作用機序のシクロオキシゲナーゼ活性阻害は日焼けによる炎症を鎮めるのに効果が期待できます。ただし、インドメタシンのような、薬店で売っている外用剤にはl-メントールやカンフルのような刺激作用をもつ成分が配合されていることがあるのでよく成分をみてから購入しましょう。

副腎皮質ステロイド剤

日焼けの炎症症状に対して、細胞膜からのアラキドン酸代謝に関係するホスホリパーゼA2の働きを阻害する作用をもっています。ただし、全身の広範囲もしくは重症な日焼けの場合には全身的な副作用や内服薬との飲み合わせのおこる可能性がありこれも注意が必要です。医師・薬剤師に相談しましょう。

酸化亜鉛

亜鉛の収斂作用により炎症をおさえると考えられています。日焼け後の化粧品やローションに皮膚の乾燥やほてりをとる目的で配合されていることがあります。液状になっているものは使用前によく振ってから使用することをおすすめします。

グリチルリチン酸、グリチルレリン酸

抗炎症作用を期待して医薬品や医薬部外品、化粧品などに配合されているのですすんで使用するとよいでしょう。

ビタミン

シミ、ソバカスにはビタミンCが有効であることは広く知られています。ビタミンCは、コラーゲンをつくるのを助けて、お肌にハリと弾力をあたえます。また、メラニンができるのを抑えるはたらきや、お肌の細胞がダメージをうけるのを防ぐ抗酸化作用もあります。不足すると、お肌にツヤやハリがなくなり、シミや小じわがふえたり、肌あれをおこしやすくなります。摂取しても、しばらくすると体から排泄されますので、こまめにとることが必要です。右の食品や、イチゴ、キウイなどの果物、ブロッコリーやホウレンソウなどの野菜にもたくさん含まれています。必要であれば薬やサプリメントも利用しましょう。
また、ビタミンEの摂取も効果的です。メラニン生成の引き金となる過酸化脂質の増加をおさえてくれます。ゴマ、アーモンドなどの種実類や植物油に多く含まれています。しかし、ビタミンEは脂溶性ですので、とりすぎると体内に蓄積してしまいます。食品から摂取する分には問題ありませんが、薬やサプリメントを利用する場合は、用法、用量を守って服用しましょう。

生活

以上のことから、紫外線は日焼けのみならず、人体へさまざまな影響を及ぼしていることがわかりました。たんに化粧品や日焼け止め、サプリメントを利用すればよいというものではありません。これまでの食生活やストレス対策などをもう一度見直してみてはどうでしょうか?

●十分な睡眠を取る。特に、肌の新陳代謝が活発になることから「美容睡眠」といわれる夜10時〜午前2時は、睡眠に当てましょう。
●強くこするなどの強い刺激を肌に与えない。
●ニキビや吹き出物などの肌トラブルは、できるだけ早く治す。
●シャワーだけで入浴をすませない。シャワーだけでは血行が悪くなり、肌がくすみやすくなります。
●ストレスをためない。ストレスは体内の活性酸素を増やすとともに、メラノサイト刺激ホルモンの分泌が促され、メラニンの生成を増やしてしまいます。

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