くすりの窓 2004.11

木枯らしが吹いて、寒い季節になりましたね。食べ物がおいしいからと食べてばっかりだと体によくありませんよ。適度な運動をこころがけましょう。

今回のテーマは、ヘルペスです。

ヘルペスとは

「ヘルペス」は、「ヘルペスウイルス」というウイルスが皮膚や粘膜に感染して、水ぶくれができる病気のことです。くちびるのまわりに水ぶくれができる口唇ヘルペスの場合、ウイルスに感染している日本人は20〜30代で約半数、60代以上ではほとんどの人が感染しているというデータもあります。
ヘルペスウイルスは、感染すると症状が治った後も人の細胞の中にじっと隠れていて、普段は症状が出てこないのが特徴です。ところが風邪や疲れなどで体の抵抗力が落ちると、突然出てきて暴れ出してしまいます。
「帯状疱疹」は、子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルス(これもヘルペスウイルスの一種です)が長い間体内に隠れていた後、突然暴れだしてしまう病気です。ただ、一口に「ヘルペス」といっても症状はいろいろ。ヘルペスウイルスはいくつかの種類があり、それによって引き起こされる病気も違ってくるのです。代表的なヘルペスの疾患について説明します。

ヘルペスの種類

ヘルペスというのは「単純疱疹(たんじゅんほうしん)」と「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」の2つを指します。いずれもヘルペスウイルスが引き起こし、症状もある程度似ていますが、別の疾患です。一般にはヘルペスは帯状疱疹を指す場合が多いため、しばしば混乱を招くようです

単純疱疹

@ 口唇(こうしん)ヘルペス

くちびるの周りに赤い水ぶくれができ、かゆみや痛みが気になる…。疲れやストレアがたまって体が弱っているときに決まって繰り返す…。これが口唇ヘルペスの一般的な症状です。日本人では10人に1人が口唇ヘルペスにかかったことがあると推計されています。しかし、症状は出ていなくても原因である単純ヘルペスウイルスに感染しているという人はもっと多く、中には自分が感染していることに気づいていない人もいるでしょう。
昔は、子どものうちに誰もが知らずに口唇ヘルペスに感染して免疫を持っていました。単純ヘルペスウイルスに感染して免疫ができると、発症しても軽症ですみます。逆に、大人になってからはじめて感染すると、症状が重症化することがあります。しかし最近では、衛生状態の改善や核家族化の影響により、特に若い人の感染率が減り、免疫を持っていない人も増えてきています。

A 性器ヘルペス

性器ヘルペスは、性器やお尻の周辺に水ぶくれができる病気です。性的な接触によってウイルスが感染する、性感染症の一つです。家族間では様式トイレの便座などから感染することがあります。性器に赤いブツブツや水ぶくれ、かいよう(皮膚のただれ)ができます。はじめてかかったときには強い痛みや発熱をともなうことが多いのに対し、再発の場合は小さな水ぶくれやかいようができるだけの、軽い症状ですむことが多いようです。
性器ヘルペスは、クラミジアについで多い性感染症とされています。日本では性器ヘルペスの患者さんがどのくらいいるのかは正確にはわかっていませんが、欧米ではほぼ5人に1人とされています。症状があっても性器ヘルペスと気づいていない人が多いため、知らず知らずのうちにウイルスを放出している危険性があります。また、性器ヘルペスは男性よりも女性に多く、若い世代ほど男女差が大きいことが特徴です。

帯状疱疹

「帯状疱疹」は文字通り、お腹から背中にかけて帯状に水ぶくれが現れる病気です。一般的には体の左右どちらか一方に出ますが、病気などで免疫力が低下しているときには帯状のものに加えて水ぼうそうのような水ぶくれが全身に出る場合があります。さらにウイルスは神経を通って皮膚に出てくるため、激しい痛みを伴うことが多いのも特徴です。はじめの症状はチクチクした痛み。数日するとその部分が赤くなって、水ぶくれができてきます。体のどこにでも症状は出るが、胸から背中にかけてが一番多く、顔や手足、お腹やおしりの下などにも現れることもあります。
痛みが始まってから、かさぶたになって治るまで約3週間〜1ヵ月くらいかかり、痛みもその頃に消えることが多いです。しかし、たまに「帯状疱疹後神経痛」といって、皮膚の症状が治った後もかなり長期間痛みが続くことがあるので要注意です。

帯状疱疹Q&A

人にうつしてしまうことはありますか。
帯状疱疹が人にうつることはほとんどありません。ただし、水ぼうそうになっていない人と接触すると、相手が水ぼうそうになってしまうことがあります。水ぶくれが治るまでは、まだ水ぼうそうにかかっていない赤ちゃんや子供、妊産婦さんなどには接触しないほうがよいでしょう。

日常生活ではどんなことに注意すればいいですか。
疲れやストレスなどで抵抗力が落ちている証拠なので、無理をせず安静に。栄養と睡眠を充分にとることが大切です。また、神経のダメージもありますので痛いからといって冷やすとかえって痛みが増してしまいます。できるだけ温めるようにしましょう。

どんな治療が有効ですか。
症状が出たら、できるだけ早い時期に治療を始めるほうが早く治ります。主にウイルスの活動を抑制する薬を内服もしくは点滴する方法が用いられています。しかしそれだけでは痛みは軽減しにくいので、痛みや発疹のひろがりに応じて痛み止め、外用を併用してもらいます。

再発することはありますか。
ふつうは一度帯状疱疹にかかると免疫力がついて再発はないとされます。しかし身体の免疫機能がひどく弱まった時などは、何度か生じることもあり得ます。再発する患者さんは、およそ100〜200人にひとりぐらいといわれています。

後遺症はありますか。
帯状疱疹ウイルスは、体内で活性化して増殖し始めたときから、神経を破壊していきます。そして破壊された神経は修復されません。したがって、自然に治るのを待っていては、後に神経痛の後遺症が残る可能性が高くなります。神経の破壊を少なくするためには、できるだけ早く治療を開始することが大切です。一般には、皮膚症状が現れてから5日目ぐらいまでに、抗ウイルス薬による治療を始めれば、後遺症は残りにくいと考えられています。後遺症が残った場合には、神経ブロックなどの対症療法によって、痛みを軽くする治療が行われます。しかし、痛みの原因を根本的に取り除くことはできません。

ヘルペスの治療

ヘルペスの治療には、ウイルスの増殖を抑えるはたらきがある「抗ヘルペス薬」が使われます。抗ヘルペス薬には塗り薬と飲み薬がありますが、症状がひどい場合は入院して点滴注射をすることもあります。
ヘルペスは体内に潜んでいたウイルスが逆戻りをして症状が起きるため、飲み薬で体のもとからヘルペスウイルスの増殖を抑えることが有効といわれています。口唇ヘルペス・性器ヘルペスの再発の場合、ピリピリ、チクチク、ムズムズといった前兆を感じたら、早めに受診して治療を受けることが、早く治すための近道です。強い痛みに対しては、鎮痛剤などを投与することもあります。また再発を繰り返す場合は体の抵抗力が落ちていると考えられますので、十分な休養と睡眠が必要です。

ヘルペスの治療薬

当院で扱っているヘルペスの治療薬について説明します。(カッコ内は成分名です)

内服薬

ゾビラックス錠・顆粒(アシクロビル)

 吸収されにくいため、1日5回4時間ごとの投与が基本です。帯状疱疹には、単純疱疹の4倍の量を投与します。顆粒もあるので、小児への投与も可能です。

バルトレックス錠(バラシクロビル)

 ゾビラックスに比べて吸収率がいいため、帯状疱疹へは1日3回、単純疱疹へは1日2回の投与になります。
服用上の注意:内服薬は、症状や部位などによって投与量や投与期間が変化しますので、自己判断せず、必ず医師の指示に従って服用するようにしてください。

外用薬

アラセナ―A軟膏(ビダラビン)

 帯状疱疹と単純疱疹のどちらにも使用します。1日4回程度塗布します。

ゾビラックス眼軟膏(アシクロビル)

 単純ヘルペスウィルスによる角膜炎に使用します。1週間程度使用しても改善しない場合は使用を中止し、医師に見てもらいましょう。



患部に触れた後や、外用薬を塗った後にはしっかり手を洗おう

患部に触れた指で目を触らないこと

コンタクトレンズを唾液で濡らして装着しないこと
(目に感染して発症する角膜ヘルペスは、失明する危険性があり要注意)

水ぶくれは破らないこと。水ぶくれの中にはウイルスが入っているため、手についたり、他の部位にとびひすることがあります。



帯状疱疹は、一度かかったら、再発することはまれ。しかし、口唇ヘルペス・性器ヘルペスの厄介なところは、なんといっても再発しやすいこと。治ったと思っても、ウイルスは神経細胞のなかにひっそりと隠れていて、再び暴れだす機会をじっと待っています。再発を防ぐためには、日ごろから体調管理や心身のリフレッシュを心がけ、ウイルスに負けない体をつくることが必要です。

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