くすりの窓 2005.9

秋になり朝晩はめっきり涼しくなってきましたね。出かける時は羽織るものを用意して温度変化に対応できるようにしておきましょう。

今回のテーマは、お酒と健康です。

アルコールの代謝  

体に入ったアルコールは、胃・十二指腸・小腸で吸収され、肝臓に運ばれます。肝臓へと運ばれたアルコールは、主にアルコール脱水素酵素によって、アセトアルデヒドに分解されます。アセトアルデヒドは、アセトアルデヒド脱水素酵素によって酢酸に分解され、酢酸は、炭酸ガスと水に分解され、最終的には、尿や呼気によって体外に排泄されます。

「二日酔い」って?

二日酔いとは、アルコールを飲み過ぎて、アセトアルデヒドが分解されずに残り、お酒による胃・腸の障害、脱水などの複合的な要因によって起こる症状です。アセトアルデヒドは、顔面紅潮、頭痛、吐き気を引き起こす強い毒性のある物質です。体重60kgの成人男性で、無毒化できるアルコールの量は、1時間に6〜9gですので、日本酒1合(約23gのアルコール)を無毒化するには3〜4時間もかかります。従って、飲み過ぎれば誰でもあのつらい二日酔いになってしまいます。
もし二日酔いになってしまったら、とにかくアセトアルデヒドを体外に排出してしまう事が大切です。水分をたっぷり摂り(スポーツドリンクがおススメです)汗や尿と共に早めにアルコールを体外に排出させるようにします。ぬるめのシャワーも効果的です。
また、アセトアルデヒドの分解に役立つ糖分やビタミンCを含んだ果物などを摂るのもいいでしょう。
梅干や酢に含まれるクエン酸、柿に含まれるタンニンやペクチン、しじみに含まれるタウリン、ウコンに含まれるクルクミンなども効果があるといわれています。
ちなみに、よくいわれる「迎え酒」は、お酒の麻酔によって二日酔いの症状を感じなくさせるだけです。逆効果なのでやめておきましょう。

急にお酒を飲み過ぎるとどうなるか?

アルコールを大量に一度に飲んだ場合、肝臓がアルコールを分解しきれなくなり、血液中のアルコール濃度が非常に高くなります。アルコールは麻酔と同じ役目をするので、血液中アルコール濃度が高くなった場合、神経が麻痺してきます。ある一定以上のアルコール濃度になると、意識がなくなり、それ以上になると呼吸が止まることもあります。これが急性アルコール中毒です。この状態は非常に危険な状態です。万が一急性アルコール中毒になったら、速やかに救急車を呼びましょう。
「イッキ、イッキ」の掛け声とともに大量のお酒を短時間で飲むイッキ飲みは、体内のアルコール分解のサイクルを無視した非常に危険な飲み方です。一時の場の盛り上がりで、大切な友人や同僚を死なせてしまうことがあっては後悔してもしきれません。「イッキ飲みは、絶対にしない、させない」ということです。

恐いアルコール依存症

アルコールには、一度体験した「酔い」を再び味わいたいという気持ちを人に生じさせる特性があるので、長期間大量にお酒を飲みつづけていると、次第にお酒を飲まずにはいられなくなります。お酒が切れてくると、手の震え、いらいら、寝汗、不眠、さらには幻覚などの禁断症状が現われるようになります。
アルコール依存症が進んでくると、家庭や職場の人間関係をこわしたり、さらに職を失ったり、家庭崩壊につながることや、酒量も増えて、起きている間ずっと飲みつづけているという連続飲酒の状態になることもあります。アルコール依存症の治療には「断酒」しかありません。そうなってしまわないうちに、好きなお酒だからこそ、節度を守り健康的に楽しむことを心がけましょう。

酒は「百薬の長」?「万病のもと」?

酒は「百薬の長」などと言われ、適量であれば、ストレスを解消し、食欲を増し、睡眠を促し、動脈硬化を予防するなどの作用がありますが、飲み過ぎれば胃炎・急性膵炎・慢性膵炎・口腔や食道の癌を引き起こすほか、痛風・高血圧症などの悪化にも関与します。しかし一番問題になるのは、肝障害でしょう。アルコールは肝臓で分解されます。アルコールが摂取され続ければそれだけ肝臓はアルコールを分解するために働き続けることになります。日本人はもともとこのアルコールを分解する酵素が少ない人種です。最初は症状がありませんが、ひどくなれば肝硬変という状態になります。
およその量として日本酒にして毎日3合くらいを5年以上飲み続けているとアルコール性脂肪肝に、毎日5合を10年以上のみ続けているとアルコール性肝硬変になる可能性が高いとされています。
また、1日平均3合以上飲む人は、時々飲む人と比べると1.61倍がんの発生率が高いことがわかったそうです。
肝障害の問題点は、自覚症状がほとんどないか、あっても軽度のだるさ・食欲不振程度で、あまく見ているうちに肝障害が進行し、気がついたときにはすでにかなり重症という事が少なくないことです。自覚症状がない状態でも身体はさまざまなサインを出しています。こうしたサインをいち早く発見するためにも、また安心してお酒を楽しむためにも、定期的に健康診断を受けるようにしましょう

アルコールの適量はどのくらい?

一口に「適量」といっても、その量は人によってさまざまです。アルコールの許容量は性別や年齢、体質(日本人は「お酒に弱い体質」の人が44%存在します)、その時の健康状態といったさまざまな要素が関係するからです。
日本では、1日の適量は日本酒で12と言われています。ただしこれは、男性で「お酒に強い」タイプの場合です。ちなみに、日本酒1合のアルコール量は、ビール大びん1本、ウイスキーW1杯、焼酎半々のお湯割りでコップ1杯、ワインはグラス2に相当します。
女性の適量は男性の約半分と言われていますが、これは体格差の他、女性ホルモンの影響(女性ホルモンがアルコール分解作用を抑制する、とされます)によるものと考えられています。
ちなみに、一般に高齢になるほど、アルコールの代謝能力が低下し、酒量も減少します。しかし、中には代謝機能が低下したことに気付かず、若い時からの酒量を続けている人がいますが、この状態を続けていると臓器に障害を起こしやすくなります。高齢者は若い時よりも量を減らす必要があります
しかし適量のアルコールが健康に良いといっても、毎日飲んでもいいというわけではありません。体のためには1週間に2日程度の休肝日を心がけたいものです。

体をいたわる上手な飲み方

空腹のときにお酒を飲むと、胃がからっぽなのでアルコールはすぐに吸収されて血液中に回り全身を駆け巡ります。つまり、はやく酔ってしまうのです。食べながら飲んでいると、胃腸の粘膜の上に食べ物の層ができます。そのためアルコールの刺激で胃を荒らすことが少なくなります。食べながら飲むとペースがゆるやかになり、血液中のアルコール濃度が急に高くなることもありません。ゆっくり酔いがまわってくるので、体にも良いのです。
枝豆や豆腐、魚、肉などの高タンパク質のものは、肝細胞の再生を促進し、アルコール代謝酵素の活性を高めます。また、ビタミンBやCはアセトアルデヒドの分解を促進してくれます。ビタミンやミネラル、食物繊維を多く含んだ食物といっしょに飲むのもおすすめです。
ただし、食べながら飲んだ方がいいからといって高カロリー、高脂肪、高塩分のおつまみをたくさん食べてしまっては高血圧、高脂血症の原因となってしまいます。アルコールは食欲を増進させるので、ついつい食べ過ぎてしまいがちです。
おつまみのポイントは1.低カロリー 2.高タンパク 3.低塩分 4.ビタミン豊富が基本です。

絶対お酒を飲んではいけない人

 
慢性肝炎や肝硬変、慢性膵炎の人

この方たちはアルコールが明らかに病気を進行させます。とくに、肝炎の人は早く肝硬変となり、そこから肝臓癌ができやすくなります。これらの人たちは付き合いでも何でもお酒を飲んではいけません.

●アルコール依存症の人

飲酒のコントロールを失っているので、二度と普通の酒飲みには戻れず、少しでも飲んでしまえば逆戻りです。節酒は不可能、一生断酒が必要となります。

●未成年

人間の成長期は心身ともに未発達です。そういう時期にアルコールが体内に入ると、そのアルコールを分解する能力が未熟なため、脳細胞に悪影響を与え、知能の低下を招くおそれがあります。また性ホルモンを作り出す機能が抑制されるなど、健全な発育を阻害することになります。

●妊婦・授乳婦

妊娠中の女性がお酒を飲むと、胎盤を通じてアルコールが赤ちゃんの体内に直接入ってしまいます。その結果、赤ちゃんに知能、身体の発育障害、特徴のある顔面の異常など、「胎児性アルコール症候群」(FAS)が出る危険性があります。
授乳期も、母乳からアルコールが体内に入っていくので危険です。アルコールは成長する新しい生命、特に脳神経細胞の発達を妨げてしまいます。授乳中も、お酒を控えるのが望ましいでしょう。

お酒と薬の飲み合わせ

お酒は飲み方を誤ると危険です。特に薬と併用した場合、まずアルコールの分解が優先され、薬は分解されないまま長く血中に停滞します。そのために薬の作用が強まり、場合によっては昏睡など危険な状態になることがあります。また逆に弱めたりする傾向がでてくることがあります。

睡眠薬、抗不安薬

お酒にも薬にも、中枢神経系の作用を抑制して睡眠状態にする作用があるので作用が何倍にも増強され、非常に危険です。呼吸抑制や循環不全で死亡する危険もあります。絶対にやめてください。

●糖尿病の薬、インスリン

アルコールは多量服用すると、血糖降下作用が出てきます。糖尿病の薬をお酒と一緒に飲むと一気に低血糖になる事があるので注意してください。

●高血圧治療薬

アルコールによる血管拡張作用と薬の作用により血圧降下作用が増強されます。

これはほんの一例で、これら以外にも危険な組み合わせはたくさんあります。

薬を飲んでいる間はお酒をやめるか、時間をずらして飲むようにしましょう!

このページのTOPへ↑