くすりの窓 2005.11日 日毎に寒さをひしひしと感じるようになりましたね。身体の冷えは体調不良の元です。暖かくして過ごしましょうね。 今回のテーマは、ノロウイルスです。 冬にもある食中毒 みなさん食中毒は夏だけのものだと思っていませんか? なにも食中毒は暑い時期だけのものではないのです。 食中毒といえば梅雨時期から初秋までが発生のピークですが、冬に多く発生する食中毒もあります。それが『ノロウイルス』による食中毒です。 昨年、特別養護老人ホームで入所者が立て続けに7名も亡くなられるという事故がありましたね。この事件については、「ノロウイルス」という聞きなれないウイルスが原因であることが後に判明しました。 この事件のおかげで、ノロウイルスは、急性の胃腸炎を引き起こすウイルスとして、最近知られてきましたが、いったいどんなウイルスなのでしょうか? ノロウイルスって? ノロウイルスとは食中毒の原因のひとつであるウイルスで、その率は年間食中毒者全体の30%を占め原因のトップになっています。このウイルスは乾燥などに強く、食品の中では増えず人の腸内で増えるため、食品の鮮度には関係なく少数でも感染する力を持っています。一般的な食中毒菌は一度に100万個以上が口に入らないと感染しませんが、ノロウイルスは感染力が強く、10〜100個程度で人に感染して食中毒症状を起こします。 またこのウイルスは夏場にも注意が必要ですが、最も被害が広がるのが真冬です。去年の年末から今年の年始にかけて、全国的な広がりを見せているのでニュースなどで一躍有名になりました。 ノロウイルスというと聞き慣れないウイルスのため、何か特別の病気のように思われますが、別に目新しいウイルスではありません。 以前は小型球形ウイルス(SRSV)と呼ばれていましたが、ウイルスの遺伝子が詳しく調べられるようになると、「小型球形ウイルス」には2種類あり、そのほとんどは、いままでノーウォーク様ウイルスと呼ばれていたウイルスであることが判明し、2002年の国際ウイルス学会で正式に「ノロウイルス」と命名されました。これに基づき日本の食品衛生法も2003年に「小型球形ウイルス」は「ノロウイルス」に改められたのでこの名前が広く使われるようになってきています。 主な症状 感染してから1〜2日後に吐き気や嘔吐、下痢、発熱、腹痛を起こします。お腹にくる風邪とよく似た症状です。 一般的に症状は3日以内で治まりますが、治っても2週間ほどは便の中にウイルスが排泄されます。免疫力の弱い乳幼児や高齢者は重症化しやすいので注意が必要です。感染しても全員が発症するわけではなく、発症しても風邪のような症状で済む人もいます。また一度発症しても何回でも感染するなどの特徴があります。 原因 このウイルスの感染経路はそのほとんどが経口感染で、大別すると次のようになります。 ● 汚染されている貝類を生、もしくは加熱処理が不十分な状態で食べた場合 このウイルスによる食中毒の原因食品の代表的な物として生カキなどの二枚貝(大アサリ・シジミ・ハマグリ等)が挙げられます。これらの食材を生、もしくは加熱が不十分な状態で食べた場合が大半を占めています。 ● 感染者から二次感染した場合 ウイルスに感染している人を介して汚染された食品を食べた場合や感染者の排泄物(糞便)及び嘔吐物から二次感染することがあります。また家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトへ直接感染するケースもあります。 カキなどの二枚貝は大量の海水を取り込み、プランクトンなどのエサを体内に残し、出水管から排水していますが、海水中のウイルスも同様のメカニズムで取り込まれ体内で濃縮されます。いろいろな二枚貝でこのようなウイルスの濃縮が起こっていると思われますが、われわれが二枚貝を生で食べるのは、主に冬場のカキに限られます。このため、冬季にこのウイルスによるカキの食中毒の発生が多いと考えられます。 治療法 ノロウイルスに対する抗ウイルス薬はありませんので、十分な水分摂取と安静が必要です。下痢による脱水症状がひどい場合は通院もしくは入院して点滴などの処置が必要になります。 止しゃ薬(いわゆる下痢止め薬)は、病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましいでしょう。 予防法 ●食品は必ず加熱調理しましょう。(食品の中心温度が85度以上で1分以上) 食中毒の多くは、主として加熱調理用として販売されているカキを生で食べて感染することが多いようです。湯通し程度の加熱ではウイルスは死にません。中心部まで十分に加熱しましょう。 ●調理器具等は十分に洗浄し、熱湯または塩素消毒液などで消毒しましょう。 ノロウイルスの失活化には、エタノールや逆性石鹸はあまり効果がありません。ノロウイルスを完全に失活化する方法には、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)、加熱があります。 調理器具は熱湯(85度以上で1分以上)または塩素系漂白剤で消毒しましょう。 ●帰宅後、トイレ後、食事の前、調理前などには石鹸をつけて手を洗い、流水で十分流しましょう。 石鹸自体にはノロウイルスを直接失活化する効果はありませんが、手の脂肪等の汚れを落とすことにより、ウイルスを手指から剥がれやすくしウイルスを洗い流す効果があります。 ●嘔吐物や、糞便で汚れた衣類等を片付けるときは、使い捨てのビニール手袋、マスクなどを用いましょう。 感染者の便や嘔吐物には多量のウイルスが含まれており、便や嘔吐物や手を介して簡単に感染が広がります。汚物中のウイルスが飛び散らないように、糞便、嘔吐物をペーパータオル等で静かに拭き取ります。また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、嘔吐物や糞便は乾燥させないことが感染防止に重要です。 汚染した床や、拭き取りに使用したペーパータオル、手袋、マスク等は、塩素系漂白剤で消毒した後、処分します。汚物の片づけが終わったら、よく手を洗い、うがいをしましょう。 生食用のカキなら大丈夫? ところでカキには生食用と加熱用があります。「加熱調理用のカキ」は、「生食用のカキ」よりも鮮度は悪いとイメージされている方が多いようですが、生食用と加熱調理用の鮮度は同じです。 生食用のカキは食品衛生法で定めている「生食用カキの規格基準」を満たすものです。 規格基準には成分規格、加工規格、保存規格の3項目があり、生食用というためにはこれらすべての規格基準を満たさなければいけません。 生食用のカキは指定海域(清浄海域)で採れたものを保健所の許可を得た加工場で加工し出荷したものです。基準を満たさない海域で採取されたカキを生食用として加工する場合、食品衛生法で定められた処理を行う必要があります。 「加熱調理用カキ」は、一般的に生食することを想定した処理をしていませんので、新鮮なものでも絶対に生で食べないで下さい。また、十分に加熱して食べるようにして下さい。 安全のためには加熱調理するべきですが、どうしても生でカキを食べたいという人は生食用のカキを食べましょう。 ただし「生食用」だからといって、このウイルスが含まれていないという保証ではありません。 生食用のカキでも、高齢者や子ども、体力のない人、あるいは健康な人でも疲れて体力の落ちている場合は注意が必要です。 生食用は滅菌海水で何度も洗うなどの加工がされ衛生的に管理されていますが、その分栄養分や旨みも一緒に洗い流されてしまうので旨味成分が減少しています。もちろん、衛生的に安心であるため、生で食べるのには適していますが、加熱する予定の時は、栄養素が豊富で旨みとコクがある加熱用の方が良いですね。 カキを安心して食べていただくポイントは、調理の時に、中心温度85度以上で1分間以上加熱し、体調不良・疲れている時は、できるだけ生を控える事が一番です。 このページのTOPへ↑ |