くすりの窓 2006.1 今年の冬は一段と寒さが厳しいですね。風邪やインフルエンザにかからないように気をつけましょう。 でも今回のテーマは普通のインフルエンザではありませんよ。 今回のテーマは、鳥インフルエンザです。 鳥インフルエンザって? 鳥インフルエンザは、鳥がかかるインフルエンザで、鳥インフルエンザウイルスによって起きる病気です。 インフルエンザにはたくさん種類があります。たとえば人と人の間でうつるのはヒトインフルエンザウイルス、馬の間でうつるのがウマインフルエンザウイルス、豚だとブタインフルエンザウイルス、そして鳥の間でうつるのが鳥インフルエンザウイルスです。 いま問題になっている鳥インフルエンザは、「高病原性鳥インフルエンザ」と呼ばれ、その名のとおり「鳥インフルエンザ」のうち死亡、全身症状などの、特に強い病原性を示すウイルスです。 これに対し、毛並みが乱れたり、産卵数が減ったりするような軽い症状にとどまるものは「低病原性鳥インフルエンザ」と呼ばれます。低病原性のものはカモなどの水鳥がもともと持っているウイルスで、例年のように集団発生が報告されていますが、高病原性のような被害は報告されていません。 高病原性鳥インフルエンザは低病原性のものが急速に感染を繰り返すうち変異して凶暴化した特別なウイルスです。 インフルエンザの型 ヒトのインフルエンザにはA型、B型、C型がありますが、鳥類に発生するインフルエンザはA型ウイルスのみによる疾病です。 ウイルスの大きさは1ミリの1万分の1。とっても小さな粒なので普通の顕微鏡では見えません。 インフルエンザウイルスは野球のボールのような形をしており、まわりにトゲトゲがいっぱいついています。このトゲは2種類あり、どちらもタンパク質でできています。これらのタンパク質はヘマグルチニン(略してH)と、ノイラミニダーゼ(略してN)という名前です。 このHとNにも、それぞれいくつもの種類があり、番号がつけられています。昨年日本国内で発生してニュースなどで話題になった鳥インフルエンザは「H5N1」と呼ばれます。Hの5というタンパク質のトゲと、Nの1というタンパク質のトゲがまわりについていますよ、というものなのです。このH、Nの型分けを「亜形(あがた)」と呼んでいます。Hは15種類、Nは9種類あり、これらの型によって感染する動物や毒性の強さが変わります。 ウイルスの増えるしくみ ウイルスは、それ自身では生きていけません。必ず、ほかの生き物の体を自分の家として使います。鳥インフルエンザの場合、鳥の体の細胞に入り込むのです。鳥の体の中に入ったウイルスは、その細胞に入り込もうとします。 その際、まずHというトゲが細胞の表面にくっつきます。“のり”のような役割です。そして細胞の中に入り込みます。このあとこの細胞を使って自分のコピーを大量に作っていきます。 細胞の中にいっぱいになったウイルスは、今度はNという別のトゲを使って細胞の壁を破って外に出て行きます。“はさみ”のような役割ですね。そして別の細胞に取りつくのです。 ウイルスはこれを繰り返して自分のコピーを大量に作り出します。 ウイルスが増える速度はものすごく速く1個のウイルスが24時間で100万個になります。ウイルスによって細胞は次々に破壊され、その細胞がある生き物は病気になってしまいます。ウイルスはさらに別の鳥の体の中にも入り込み、仲間を増やして細胞をこわしていきます。こうしてたくさんの鳥があっという間に病気になってしまうのです。 ヒトへの感染について 最初に、「インフルエンザウイルスはいろいろ種類がある」といいましたね。鳥のインフルエンザウイルスは、ヒトとはタイプが違うので、普通は人にはうつりにくいと考えられます。 ところが、鳥インフルエンザウイルスを大量に吸い込んだりすると、人の細胞に取り付くことがあるようなのです。すると鳥と同じように、ヒトの細胞の中でウイルスが大量に増えていって、病気になってしまうのです。 ウイルス自体が人間にうつるものになってしまう事もあります。ウイルスは細胞の中で大量に自分のコピーを作りますが、このときコピーのミスが起きて、ほかの動物にもうつる新しい別のウイルスに変身する可能性があるといわれています。 また、鳥から人間にうつるウイルスになるとき、豚が仲介する可能性も言われています。豚には鳥インフルエンザ、人間のインフルエンザの両方がうつるのですが、両方のウイルスが豚の体内で交じり合って、別のウイルスが生まれる可能性があるというのです。 そしていま一番心配されているのは、鳥から人間にうつるだけでなく、人間から人間にうつったりしないかということです。 鳥から人間にうつったケースはありますが、人間から人間にうつったということは、いまのところありません。でももし、新しいインフルエンザウイルスが生まれると、これまでに人間がかかったことがないので、そのウイルスには人間は免疫をもちません。そのため人間の間で広がり始めたら、大勢の犠牲者が出る恐れがあります。それが心配されるので、大きなニュースになっているのです。そこで新しいウイルスが生まれる可能性を監視すると共に、もし発生したときにどんな対策をとればいいか考えられているのです。 鳥インフルエンザに効く薬 そこで、ウイルスの対策が考えられています。ウイルスの対策といえば、ワクチンがあります。でも、それぞれのウイルスにぴったり合ったワクチンでないと、効果がありません。まだ人間に鳥インフルエンザウイルスが入った場合のウイルスを抑えるワクチンは見つかっていません。 でも、ワクチンができなくても、最近はウイルスに対抗する薬ができています。「抗ウイルス薬」といいます。この薬は、働きによって2種類あります。 ●アマンタジン(当院採用薬:シンメトレル) ウイルスは、細胞に取りつき、自分のコピーを作らせます。そのときに、コピーをさせないようにストップさせ、ウイルスが増えないようにする仕組みです。でも、既にこの薬が効かなくなるウイルスがたくさん出てきているため、鳥インフルエンザの治療にはあまり効果がないとされています。 ●タミフル ●リレンザ(当院にはありません) もう1種類の薬は、コピーが行われた後のウイルスに働きかけます。ウイルスが、Nのトゲトゲを使って細胞を突き破って外に飛び出していくのを防ぐ働きをするのです。これだと、この細胞はダメになってしまっても、ウイルスが外に飛び出していかないので、体内でウイルスが増えるのを防ぐことができるのです。 タミフルは経口剤ですが、リレンザは吸入剤です。この薬にも効かなくなるウイルスが現われ始めましたが、アマンタジンに比べてまだまだ数は少ないので鳥インフルエンザの治療に有効であるとされています。 政府がまとめた対策では、万一に備えて、この薬を大量に製造してたくわえておこう、ということになっています。 いずれの薬もウイルスが増えるのを防ぐ薬で、ウイルスを殺す薬ではありません。そのため感染してから48時間以上経ち、ウイルスが増えてしまった後ではあまり効果が見られないといわれています。 【タミフルの副作用について】 最近、タミフル服用後の異常行動(マンションから転落・トラックに飛び込むなど)の副作用がニュースなどで報道されて注目されています。タミフルは重大な副作用として、まれに異常行動や意識障害などが報告されています。 しかし元々インフルエンザには、突然死や異常行動、興奮、幻覚などの症状があるので異常行動がインフルエンザ脳症なのか薬の副作用なのかの区別は難しいのが実情です。 タミフルに限らず、薬は期待する効果である「主作用」と期待しない効果「副作用」があります。多かれ少なかれ、どうしても薬に副作用はあるのです。そのため、医師は診療するときに、メリット(効果)とデメリット(副作用)を比較して、メリットが大きい場合、またはメリットが出る確率が高い場合にその薬や治療法を必要に応じて行います。 むやみに不安にならず、薬を服用した人の状態をなるべく見守り、冷静に判断することが大切です。「これはおかしい」と思えば、すぐに医師に見てもらいましょう。 予防と対策 過度に野鳥などを恐れる事はありませんが、素手で触るなどの不用意な接触はやめましょう。また、鳥インフルエンザが発生したために、これまでペットとして家庭などで飼育していた鳥が直ちに危険になるということはありません。 しかし鳥に限らず、動物などの世話や接触の後には、他の感染症も含めた予防のためにマスクなどをしたり、流水、石鹸による手洗いやうがいをこまめにすることを心がけましょう。インフルエンザウイルスの突起の所には脂肪があります。このため石鹸で洗えば、インフルエンザウイルスはきれいに洗い流すことが出来ます。 ニワトリの肉や卵を食べて人間が感染した例はありません。仮に、人がインフルエンザの存在する鶏肉や鶏卵を食べても鳥インフルエンザウイルスは酸に弱いため、胃を通過する時に胃酸により死滅します。また、人間の腸管には鳥インフルエンザのリセプター(感染するための受け皿)は無いので、鶏肉、鶏卵などからの感染はないと考えられます。なお、インフルエンザウイルスは加熱(食品の中心温度70度)により死滅しますので、心配な場合は加熱調理してください。 ※この内容は2006.1発行時のものです このページのTOPヘ↑ |