くすりの窓 2003.7

夏本番ですね。うだるような暑さで寝苦しい夜が続いています。
今回のくすりの窓では、睡眠についてとりあげます。不眠症と睡眠薬の話を中心に、金縛り、いびきといった話題にもふれていきます。
睡眠時間
1日の総睡眠時間は年齢とともに変化します。1日の3分の2を眠って過ごす新生児期から徐々に睡眠時間は減少していき、老年期になると再び長くなります。成年の平均睡眠時間は1日7〜8時間とされることが多いですが、幅が大変大きいので「7〜8時間の睡眠時間が必要」「7〜8時間眠っているから十分眠っているはず」といった考えは間違いなのです。

不眠症
国内で行われた多くの調査によると、日本人の4〜5人に1人は何らかの形の不眠で困っているといわれています。不眠は男性より女性に多く(約1.5倍といわれています)、高齢者になるほど頻度が高くなるのが特徴です。
不眠の症状は主に以下の4つに分類できます。
寝付けないという入眠困難
途中で2回以上目が覚めてしまう中途覚醒
朝早くに目覚めてしまう早朝覚醒
眠ったという満足感のない熟睡感の欠如
これらの症状は、いくつか重複してみられることもあります
原因としては以下のようなものがあります。
ストレスなどの心理学的原因
体の痛み・かゆみや頻尿などの身体的原因
内服している薬剤やアルコール、カフェインなどによる薬理学的原因
騒音・光などの睡眠環境、旅行や転居を含めた環境の変化などの生理学的原因
うつ病などの精神医学的原因

よりよい睡眠をとるためには・・・

日中はすることがなく寝て過ごしているが、「夜眠れない」と睡眠薬を希望される方がまれにおられます。このような場合、安易に薬に頼る前にまず昼寝をしない努力が必要です
睡眠に好ましくない生活環境を見直し改めることで、軽度な不眠であればかなりの改善がみられることもあります。以下に不眠に対する基本的な対処法や心がけることをいくつか挙げます。

眠れない時の対処法

@規則正しい生活をする(起床時間や就寝時間を一定にする)
A昼寝を多く取りすぎない
B寝る前にアルコール、カフェイン、ニコチンは控える
C昼間に適度な運動を行う
D夜はくつろいで過ごす
E寝室は清潔で快適なものにする
F必要以上に眠ろうとあせらない


睡眠薬について

不眠が重篤で持続的な場合や、非薬物療法のみでは十分な効果が得られない場合には、対症療法として睡眠薬を中心とした薬物療法が用いられます。
睡眠薬というと、「依存性が強く、一度のむとやめられなくなってしまう」など、恐ろしい薬というイメージを持たれている方もあるようですが、これは誤解です。確かに、昔使われていた睡眠薬にはそのような問題点がありました。しかし医学は進歩し、その後、依存性や耐性を克服した睡眠薬が開発されてきました。
睡眠薬は薬の作用時間によって超短時間型、短時間型、中間型、長時間型の4種類に分類されています。入眠困難タイプの方には短時間できく薬を、睡眠が持続できないタイプの方には長くきく薬をというふうに不眠のタイプによって使い分けられます。

 当院で処方されるお薬の例
ハルシオン、アモバン、マイスリー:超短時間型
レンドルミン、エバミール:
短時間型
ユーロジン、ロヒプノール:
中間型
ドラール:
長時間型
その他、抗不安薬といわれる安定剤も使われます。(リーゼ、デパス等)

先ほど述べたように原因を考えたり、生活環境を見直しながら、薬に頼りきりにならないようにしましょう。

睡眠薬Q&A

Q:睡眠薬は毎日飲まない方がいいですか?
A:長期不眠の場合は、ある期間きちんと服用して、睡眠のリズムを整える必要があります。薬を飲まないと眠れないのに無理して飲まないでいると、生活のリズムが崩れ、かえって眠れなくなることもあります。心地よい眠りや正常の睡眠リズムを得るための最低必要量は長期間服用していても安全です。
Q:毎日飲むと効かなくなりませんか?
A:長期間服用していると効果が弱まる現象を「耐性(たいせい)形成」と呼びますが、適切な服用をしている限り耐性はほとんどないと考えてください。
Q:飲み始めるとやめられないのですか?
A:急に睡眠薬をやめると「反跳性(はんちょうせい)不眠」といって、それ以前より不眠が強くなることもありますが、少しずつ減らしていけば大丈夫です。医師の指示に従いながら、必要なときはしっかり服用し、計画的に減らしていってください。
Q:睡眠薬を飲むとボケませんか?
A:必要以上の量を飲んだり、アルコールと一緒に飲んだりすると、一過性の健忘(後で思い出せない、物忘れ)が生じることがありますが、あくまで一時的なもので、睡眠薬を連用したからといって、痴呆になるということはありません。また、作用が持ち越して、翌日に眠気・だるさ・ふらつき、ボーっとすることなどが起きることがあります。そのような場合は医師に相談しましょう。

不眠とアルコール

「睡眠薬よりお酒の方が安全」「睡眠薬を飲むぐらいなら寝る前にお酒を飲んだ方がよい」などと思っている人がおられるようですが、これは間違いです。アルコール類は寝付き(入眠)を助けることはありますが、熟眠を妨げたり、早朝覚醒をもたらすことがあります。それだけでなく、アルコールは「耐性」を生じやすいので毎日飲んでいると、だんだん効果がなくなり徐々に酒量が増えていき、身体の病気(肝臓疾患など内臓疾患)を引き起こしたり、アルコール依存症になったりします。
 厚生省の推定では、アルコール依存症は全国で約240万人にのぼり、飲酒人口の2〜3%(40歳以上の男性では、約14%)を占める非常に多い病気です。高齢者のアルコール関連問題も増えていますし、くれぐれもご用心ください。
また睡眠薬とアルコール併用すると作用が強まり、一過性の健忘(後で思い出せない、物忘れ)など起こしやすくなります。危険ですのでやめましょう。

金縛りはどうしておきる?
恐ろしいものが追いかけてきたり身体の上にのしかかってくるのに、逃げようとしても身体がまったく動かない。これが俗にいう「金縛り」現象です。専門的にはレム睡眠の特殊な場合に起こる睡眠麻痺とよばれる生理的な現象です。
レム睡眠は浅い眠りで、ほとんどの人は夢をみています。つまり、脳は起きている状態に近いのに、筋肉はゆるんでぐったりしているという身体の眠りです。このレム睡眠のときに急に目が覚めると、体の力が抜けきっているため、すぐには動けず金縛りといった状態になるのです。ただ、この状態は数秒あるいは数分続くだけで徐々に、または突然に回復します。金縛りは若い人に多く、不規則な睡眠習慣や睡眠不足、心身のストレスが溜まっているようなときに起こりやすいといわれています。

危険ないびきって?
いびきは、寝ているときに舌や喉の奥の筋肉がゆるみ気道が狭くなり、空気が通るときに口の中の軟部組織が振動しておこる音です。年をとるほどいびきは多くなり、60代では男性の60%、女性の45%は一晩に1回はいびきをかくといわれています。お酒を飲みすぎた時や身体が疲れている、扁桃腺炎や鼻炎などの病気がある人もいびきをかきやすくなります。
軽いいびきは騒音程度で、特に健康上の心配はいりません。ただし、いびきをかく人の中には、睡眠中に呼吸が止まってしまう「睡眠時無呼吸症候群」という病気が隠れていることがあります。夜のはげしいいびきが原因となり、昼間に耐えられないほどの眠気におそわれる人は、この病気が隠れている可能性があり、要注意です。
「睡眠時無呼吸症候群」は、睡眠中に一時的に10秒以上続く無呼吸が1晩に30回以上も起きるという睡眠障害です。大きないびきのあと、突然いびきが止まって無呼吸となり、その後、空気が抜けるような「ヒュー」という音や、「ググッ、ガガッ」という大きないびきをかくような場合は、この病気が疑われます。無呼吸時の酸欠状態は、高血圧や動脈硬化などを引き起しやすく、脳梗塞や心不全など生命にかかわる危険もあり注意が必要です。いびきの気になる人は、一度、睡眠中の状態を家族に観察してもらいましょう。

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