くすりの窓 2003.11

年度末には、仕事のつきあいなど、外食する機会が増える方も多いでしょう。前回のくすりの窓では、糖尿病を取り上げました。今回は同じように生活習慣病と言われている高脂血症を取り上げたいと思います。

少し前の日本では、食事はごはん中心のデンプン食が多く、高脂血症の患者の数はあまり多くありませんでした。しかし、食事の欧米化によるカロリーや脂肪のとり過ぎなどが一因となり、近年、高脂血症の患者の数は増えてきています。

高脂血症は自覚症状がありませんが、長く続くと動脈硬化が進行して、その結果、冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)、脳血管障害(脳梗塞・脳出血)などが起こりやすくなります。

高脂血症とは?

高脂血症は血清脂質のうちコレステロールとトリグリセリド(中性脂肪)のいずれか一方、もしくは両方が増加した状態で、冠動脈疾患や脳血管障害などの動脈硬化性疾患の最大の危険因子です。コレステロールの中には、いろいろな種類があります。その中の2つを説明します。

LDLコレステロール
別名、悪玉コレステロール。コレステロールを肝臓から脳や筋肉などの末梢組織に運ぶ乗り物であるLDLの中にあるコレステロール。余ったコレステロールを動脈の壁に残します。

HDLコレステロール
別名、善玉コレステロール。末梢組織で余ったコレステロールを肝臓へ戻すHDLの中にあるコレステロール。

高脂血症の診断基準(空腹時採血)
高コレステロール血症 総コレステロール 220mg/dL以上
高LDLコレステロール血症 LDLコレステロール 140mg/dL以上
低HDLコレステロール血症 HDLコレステロール 40mg/dL以上
高トリグリセリド血症 トリグリセリド 150mg/dL以上

治療方針

高脂血症と診断されたら、まず食事を含むライフスタイルの改善を行うことが必要です。脂質を下げる目標値は人により異なり、詳しくは事項「管理基準」で述べます。ライフスタイルの改善でも目標値に達しない場合には薬物療法が必要となります。

管理基準

高脂血症以外にも、他に糖尿病や高血圧などの危険因子(リスクファクター)をもっていると、それだけ動脈硬化になる危険性が高まることが知られています。また、心臓病になった経験がある人は、再発も心配されます。そのため、そのような人は高脂血症だけをわずらっている人よりも、さらに厳しいコントロールが必要になります。


      高脂血症の治療目標基準

コレステロール:原則としてLDLコレステロールで評価

   LDLコレステロール=総コレステロール−HDLコレステロール−トリグリセリド/5

冠動脈疾患(注)

患者さんの状態

総コレステロール値

LDLコレステロール値

なし

他の異常なし

240mg/dL未満 160mg/dL未満

以下の危険因子1〜2個

220mg/dL未満 140mg/dL未満

以下の危険因子3個以上

200mg/dL未満 120mg/dL未満

糖尿病あり

200mg/dL未満 120mg/dL未満

脳梗塞、閉塞性動脈硬化症あり

200mg/dL未満 120mg/dL未満
あり

180mg/dL未満 100mg/dL未満

HDLコレステロール40mg/dL以上
      トリグリセリド 150mg/dL未満 

(注)冠動脈疾患:確定診断された心筋梗塞、狭心症

危険因子:1)加齢(男性45歳以上、女性55歳以上) 2)高血圧 3)糖尿病(耐糖能異常を含む) 4)喫煙5)冠動脈疾患の家族歴 6)低HDLコレステロール血症(40mg/dL未満)


ライフスタイルの改善

*食事療法

1)適正体重、適正カロリー

体重1kgの増加でコレステロール値が約4mg/dL増加します。したがって、エネルギー摂取そのものを制限することによる体重コントロールが必要です。
  理想体重は 身長(m)×身長(m)×22  で表されます。
  160cmなら    1.6×1.6×22=56.32kg となります。

2)アルコール、甘いものは控えめに   

アルコールや果糖、ショ糖などの過剰摂取は血清トリグリセリドを増加させます。

3)食物繊維をとる

食物繊維には血中のコレステロール値を下げる効果があります。いも類、海草類、ごぼう、たけのこ、こんにゃくなど積極的に食べるようにしましょう。
         

4)コレステロールの制限

日本人のコレステロール平均摂取量は1日400mg前後と過剰傾向にあるといわれています。高脂血症ではコレステロール制限が必要で1日300mg以下が望まれます。コレステロールが多い食べ物は、卵黄・魚卵や、バター、チーズ、レバーなどの動物性食品に多く含まれています。(鶏卵1個で260mg、バター10gで210mgのコレステロールが含まれてます)
                            

 

*運動療法

有酸素運動(呼吸しながら継続する運動)が効果的です。特に中性脂肪が高い方には効果が期待されます。有酸素運動にはウォーキング、ジョギング、水泳などがあります。
しかし、すでに狭心症・心筋梗塞などの既往がある人では、運動により狭心症発作を引き起こしたりする危険を伴うことがあります。これまであまり運動の習慣のない方やご高齢の方、大きな病気をしたことのある方は、医師に相談して指示に従いましょう。

*禁煙

タバコはHDLコレステロールを減らし、LDLコレステロールを増やします。また、タバコに含まれる酸化物質は血管にダメージを与え、動脈硬化をもたらします。さらに、ニコチンの作用によって末梢血管の収縮、血圧上昇、心拍数の増加がおこり、狭心症や心筋梗塞などの発作がおこりやすくなります。
ニコチンには依存性があり、なかなか禁煙できない人も多いですが、タバコの危険性を考えて、強い意志をもって禁煙するようにしましょう。市販の禁煙補助剤を使うのもいいでしょう。

薬物療法

高脂血症は基本的には自覚症状がありません。しかし、先ほども述べたように、放置すると動脈硬化が進行し、冠動脈疾患や脳梗塞などを発症する原因となります。お薬が処方されたら、継続して内服することが必要になります。
以下に当院で処方されている薬の説明をします。

*スタチン系製剤(メバロチン、ローコール、リピトール)
肝臓のコレステロール合成を抑えます。現在最も使用されている高脂血症の薬です。注意する副作用として、「横紋筋融解症」があります。筋肉痛、脱力感、しびれ、暗褐色尿などに気づいたら、内服を中止し受診をしましょう。
*抗酸化薬(ロレルコ)

コレステロール低下作用とともに、抗酸化作用があり、動脈硬化巣に直接働いて動脈硬化の進展を抑制します。効果が現れるまでは、一ヶ月前後要します。

*コレステロール吸収阻害薬(コレバインミニ)

腸管でのコレステロールの吸収を抑え、血中コレステロールを低下させます。他剤の吸収を阻害することがあるので、食前内服がすすめられています。比較的起こりやすい副作用に便秘、腹部膨満感があります。

*フィブラート系製剤(ベサトールSR

特に中性脂肪を低下させます。注意する副作用として、横紋筋融解症があります。

*EPA製剤(エパデールS)

高脂血症の改善のほか、末梢循環障害の改善作用があります。空腹時では吸収が悪いので、食直後の内服が効果的です。

*ニコチン酸類(ユベラN、ペリシット)

高脂血症の改善のほか、末梢循環障害の改善作用があります。脂質低下作用は比較的弱いです。

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