くすりの窓 2004.1

中高年世代が10人も集まれば、うち3人や4人は高血圧。日々の会話の中で「血圧が上がった、下がった」などと話題になることも多いことでしょう。
血圧が高いことを気にしている方、なぜ血圧を下げなければいけないか、ちゃんと理解していますか?病院で高血圧のお薬を処方された方、毎日きちんと内服できていますか?高血圧は放置すると、心臓や血管、さらに他の臓器にも障害をきたします。
今回のくすりの窓は高血圧の特集です。当院で処方されているお薬についても紹介します。


血圧とは?

血圧とは、心臓から送り出された血液が動脈の内壁を押す力のことです。心臓が収縮して血液が送り出されているときの最も高い血圧を「収縮期血圧」(上の血圧)、心臓に血液が戻ってきているときの最も低い血圧を「拡張期血圧」(下の血圧)と呼びます。
繰り返しの測定で収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期高血圧90mmHg以を高血圧症とよんでいます。

高血圧の原因

原因がはっきりわかっているものは「二次性高血圧」と呼びます。しかし、これは高血圧全体の10%未満にすぎません。例えば、腎炎などの場合では腎臓での血圧上昇機序が働くことにより、また副腎性のものでは、血圧を上げるホルモンが作られすぎることにより血圧が上昇します。これらの高血圧は原因を特定し、その原因が除去できれば、根本的治療が可能です。

高血圧の大半は原因が特定できない「本態性高血圧」です。多くの場合は一生つきあってもらうことになります。本態性高血圧は
遺伝因子環境因子が複雑にからみ合って発症し、高血圧が続きます。

環境因子としては、
食塩、アルコール、肥満、運動不足、精神的ストレス、喫煙などがあげられます。だから、両親などが高血圧で、遺伝的に高血圧になりやすい体質の人でも、塩分の制限、節酒、肥満の改善、適度の運動など、環境条件を改善すれば、高血圧の発症を防いだり、発症を遅らせたり、上がった血圧を下げたりすることができるのです。これらは、またのちほど説明します。

なぜ高血圧は怖いのか?

血圧が長時間高い状態が続くということは、血管に長時間その力がかかり続けるということです。血管の壁は本来弾力性がありますが、高血圧が長く続くと、次第に厚く、硬くなっていきます。そして、その力に耐えきれなくなり血管が破れたり、動脈硬化を起こしてもろくなったりするのです。

その結果、脳梗塞、脳出血、心筋梗塞、眼底出血といった病気が起こります。また、心臓肥大が起こり、心不全になることもあります。さらに、腎不全などの合併症を引き起こすことがあります。
例えば左図は血圧が高いと、どれだけ脳出血が起こりやすくなるかをみたものです。グラフで明らかなように収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上になると発症頻度はぐっと高まることがわかります。

        血圧レベルの脳出血発症の頻度
       (1961年〜79年、久山町研究より)

   

降圧目標

高血圧の治療は単に血圧を下げるだけでなく、高血圧に基づく疾患の発症をいかに防止するかが大切です。

血圧の目標値は、患者のその他の疾患の有無、年齢などにより異なります。例えば、糖尿病は高血圧に基づく疾患の重大なリスクになります。よって、糖尿病をもつ高血圧患者は、一般より低めの収縮期血圧130mmHg、拡張期血圧85mmHg未満が理想とされています。

高齢者では、加齢と動脈硬化の進展で血管の伸展性が失われているため、収縮期だけ血圧が高くなる収縮期高血圧が多いのが特徴です。臓器血流量も低下し、さまざまな問題点もあるため、年齢に応じた無理のない降圧が望まれます。


生活習慣の改善(高血圧治療ガイドライン2000年版より)

高血圧治療の基本は生活習慣の改善です。

1)食塩制限7g/日(このうち調味料などとして添加する食塩は4g/日)以下

塩分をとり過ぎると体内水分が蓄積し、血流量を増加させます。これにより血圧が上がります。現在日本人の食塩摂取量は1日約13gであることから、守れる範囲の摂取量ということから日本では1日7gが推奨されています。

 参考:食塩1gに相当する調味料の目安・・濃口しょうゆ小さじ1杯、辛みそ大さじ1/2杯、ウスターソース小さじ2杯強、マヨネーズ大さじ3杯

2)適正体重の維持

 標準体重〔身長(m)×身長(m)×22〕の+20%を超えない

太り過ぎは体に四六時中重い荷物を持っている状態であり、心臓にも負担をかけます。また、肥満者はそうでない人に比べて、高血圧が2〜3倍多いことがわかっています。

3)アルコールの制限:エタノールで男性は20〜30g/日(日本酒約1合)以下、女性は10〜20g/日以下

アルコールの取りすぎは、皮下や肝臓やその他の体に、余分な皮下脂肪がつき、体重過重となります。

4)コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える 

血圧との直接の関係はありませんが、動脈硬化の進展防止、冠動脈疾患の危険因子を減らすために、脂肪やコレステロールの摂取を控えましょう。

5)運動療法(有酸素運動)*心血管病のない高血圧患者が対象

運動や労作の許される程度は、その人の高血圧の重症度や合併症の有無と関連するので、医師に相談のうえ、行って下さい。

6)禁煙

タバコに含まれるニコチンは交感神経を興奮させ、その結果、血管を収縮させたりして一時的に血圧を上げてしまいます。喫煙は血圧に作用するだけでなく、心臓血管系の病気の重要な危険因子のひとつなので、禁煙が望まれます。


薬物療法

生活習慣の改善を行なっても血圧が高い場合、薬物療法が必要となります。
高血圧の治療に使われるお薬は多種多様です。
高血圧の薬は作用機序によりいくつかのグループに分けられますが、同じグループの薬でも作用時間、代謝される部位の違いなどにより少しずつ違いがあります。医師は患者さんの病態をみながらお薬を調整します。
以下に当院に採用されている代表的な降圧剤について説明します。
なお、薬を服用するようになってからも、いつも生活習慣の改善には努めてください。

 

1)カルシウム拮抗剤アダラートL、アダラートCR、ノルバスク、ペルジピンLA、コニール、カルスロット、バイミカード、ヘルベッサー、ヘルベッサーR、アテレックなど
血管を広げて血圧を下げます。狭心症の予防に使われるお薬があります。注意点としては、グレープフルーツジュースとの相互作用があります。
おもな副作用:顔面紅潮、頭痛・・血管を広げる作用によるもの
           動悸、頻脈・・血圧低下に伴う交感神経の緊張によるもの
2)ACE阻害薬(レニベース、プレラン、タナトリル、コナン、インヒベース、コバシル、エースコール)
アンギオテンシンUという血圧を上げる物質の産生を抑え、血圧を下げます。心臓、腎臓、脳に対する臓器保護作用があるという特徴があります。
おもな副作用:空咳(熱も痰も無いのに咳がでる)・・ほぼ5%前後と頻度の高いもの
3)アンギオテンシンU受容体拮抗薬(ニューロタン、ディオバン、ブロプレス)
アンギオテンシンUという血圧を上げる物質が、受容体を刺激することをふせいで、血圧を下げます。ACE阻害薬とよく似たお薬ですが、こちらは咳の副作用が少ないのが特徴です。ACE阻害薬と同様に臓器保護作用はあります。
4)β遮断薬(セロケン、テノーミン、アーチスト、アセタノール、インデラルLA)
心臓の働きを抑えて血圧を下げたり脈を遅くしたりします。
5)α1遮断薬(カルデナリンなど)
血管を広げ血圧を下げるお薬です。
おもな副作用:起立性低血圧(立ちくらみ)


グレープフルーツジュースとお薬の飲みあわせ

カルシウム拮抗薬という種類の血圧のお薬はグレープフルーツジュースと飲み合わせが悪いといわれています。一緒に飲むとどういったことがおこるのかなど、以下に質問形式で説明をしていきます。

 

Q カルシウム拮抗薬をグレープフルーツジュースでのむとなぜいけないの?
A グレープフルーツジュースに含まれる成分がお薬の代謝をさまたげ、お薬が効きすぎたり副作用が出やすくなるからです。

レープフルーツジュースの成分は、カルシウム拮抗薬の小腸での代謝を遅らせることがわかっています。したがって、カルシウム拮抗薬とグレープフルーツジュースを一緒に飲むと、薬の代謝が遅れてたくさん吸収され、血圧が下がりすぎたり、顔のほてり、頭痛、ふらつきなどの副作用があらわれることがあります。

  

Q どのくらい影響するの?
A 影響の程度はお薬によってまちまちです。
さらに個人差もあり、必ず影響があるというものではありません。

当院にあるお薬で一番影響をうけやすいのは、バイミカードというお薬です。
コップ一杯(200ml程度)のグレープフルーツジュースとこのお薬を同時に飲むと、血中濃度が3〜5倍になったという報告があります。つまり、いつものお薬を3〜5倍飲んだのと同じようなことになる恐れがあるのです。その他のお薬はここまで影響はありません。また、カルシウム拮抗薬の中でも、ノルバスク、ヘルベッサーなどは、影響が少なく、注意は必要ないとされています。

 

Qジュースではなく、グレープフルーツの果肉なら影響ありませんか?
A果肉部分にもお薬に影響を与える成分は含まれています。よって、お薬が効きすぎる可能性がありますので、果肉を食べる場合も注意が必要といえます。

 

Q オレンジジュースやりんごジュースはどうですか?
A オレンジ、レモン、みかん、りんごといった果物は影響しません。スイーティー、ザボン、土佐文旦には相互作用を起こす可能性があるといわれています。

 

Q 薬と一緒に飲まなければ飲んでも大丈夫ですか?
A 時間をずらしても、影響があるといわれているものもあります。
バイミカードというお薬では、グレープフルーツジュースを飲んだ3〜4日後にお薬を飲んでも血中濃度の増加があるという報告があります。「一緒に飲むのはさける」とあっても、その他の時間も飲まないほうが安全といえます。その他のお薬はさほど影響はありませんが、個人差もありますし、グレープフルーツジュースを飲む時は注意しましょう。

 

Q 影響を受けるのはカルシウム拮抗薬だけですか?
A 免疫を抑制するお薬のサンディミュンなどもグレープフルーツジュースの影響を受けます。

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