くすりの窓 2004.3

人類が四足歩行から立ち上がり二足歩行をする動物「ヒト」となって以来、腰痛は私たちの生活に深く関わっています。国民の訴える症状の多さに関する国の調査では、全国民1000人あたり93人の割合と、さまざまな症状のなかで一番多いのが腰痛です。

今回のくすりの窓では腰痛に用いられるお薬をとりあげます。腰痛以外の痛みや解熱に対しても広く使われている消炎鎮痛剤の説明をしますので、腰痛もちでない方も読んでみて下さい。

腰痛の種類

いわゆる腰痛と言われるものには、その原因によっていろいろな種類があります。腰背部に急激な痛みを生じる「ぎっくり腰」、椎間板ヘルニアなどにより腰から下肢にかけて鈍痛や運動時痛をもたらす坐骨神経痛、高齢者に見られ慢性の鈍痛を主徴とする変形性腰痛症などです。また、骨粗しょう症による圧迫骨折、骨量減少による骨の変形などによるものもあります。これら筋・骨格系の異常による腰痛以外にも、産婦人科領域の疾患によるもの(月経困難症など)、泌尿器科領域の疾患によるもの(腎盂腎炎など)、内科系疾患によるものなどさまざまです。
治療方法は原因により異なってきます。薬物療法の多くは原因に対する治療ではなく、「痛み」に対する対症療法になります。

内服薬

1)非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID;Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug)(ロキソニン、ボルタレン、モービック、ナボールSRなど)
腰痛以外の痛みにも広く使われている薬剤です。炎症や疼痛の増強因子の合成を阻害することで作用が現れます。
出現しやすい副作用として、胃痛、胸やけ、食欲不振、下痢などの消化器症状があります。そのため、胃粘膜を保護する胃薬などと一緒に服用することがあります。
解熱作用もあり、痛みや熱があるときに頓服で用いることもあります。空腹時に内服する時には、副作用を予防するために、牛乳や多めの水で飲むようにしましょう。
2)筋弛緩薬(ミオナール、リンラキサー)
腰背部の筋肉のこわばりが痛みの原因になっている場合、これらの薬で、こわばりや、異常緊張を緩和することで、痛みを軽減できることがあります。
3)ノイロトロピン
消炎鎮痛薬とは異なる作用機序をもちます。抗炎症作用はありません。鎮痛作用は即効性はなく、十分な効果を得るためには2〜4週間を要します。
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
この漢方薬は、体力の比較的低下した方、老人、夜間頻尿のある方などの、腰痛・下肢痛(その他、しびれ、老人のかすみ目、排尿困難など)に用いられます。
5)骨粗しょう症治療薬
腰痛の原因が骨粗しょう症の場合、痛みに対する対症療法のほかに、骨粗しょう症に対する治療が必要です。カルシウム製剤、骨の溶解を抑制する薬剤、女性ホルモン製剤、ビタミン製剤などがあります。

 外用薬

1)貼布剤
貼布剤は腰痛のみならず、捻挫、打撲、筋肉痛、関節痛などに対してもよく使われており、市販薬もたくさんあります。従来の冷シップあるいは温シップといった「刺激型鎮痛消炎パップ剤」とNSAIDの経皮吸収を重視した「経皮吸収型鎮痛消炎剤」の大きく2つの種類に分けられます。
刺激型鎮痛消炎パップ剤(MS冷シップ、MS温シップ)

冷シップは保湿性に優れた基材にサリチル酸系の消炎鎮痛剤と天然ハッカ(メントール)などの局所刺激性薬剤が加えられており、基材に含まれる水の冷却効果と冷感成分による効果を期待したものであります。これに対し、温シップは局所刺激性薬剤としてトウガラシエキスなどの温感成分が加えられており、血管拡張、局所循環の改善を目的としたものです。

※冷シップか温シップか?
暖めたほうがよいのか、冷やしたほうがよいのかは腰痛の種類・症状によって異なります。簡単な使い分け法としては、急性の炎症や痛みを伴う場合には「冷シップ」、慢性化しており、炎症がなく、お風呂などで温めると楽になるような場合には「温シップ」といえます。
※温シップの注意点
温シップは冷シップと比べ、皮膚刺激作用が強く、発赤・発疹などの副作用が出やすいとされています。また、はがしてすぐの入浴や、貼布部位をホットカーペットやコタツで暖めると温感刺激が強くなりすぎることがあります。入浴の場合、30分〜60分前にははがしておくようにしましょう。
経皮吸収型鎮痛消炎剤(インサイドパップ、モーラステープ)

冷温の区別がなく、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)が患部に経皮吸収されることにより消炎鎮痛効果をもたらすものです。基材の開発により、主薬であるNSAIDがおよそ12時間で均一に放出され、1日1〜2回の貼り替えで十分な効果が得られるようになっています。
インサイドパップには「インドメタシン」、モーラステープには「ケトプロフェン」という成分が含まれています。インサイドパップは、「パップ剤」という水分を多く含む剤形が特徴で、水分による冷却効果が期待できます。また水の濡れを利用した粘着によるため肌にやさしいが、その分はがれやすいといえます。一方モーラステープははがれにくいがかぶれやすいといえます。

※モーラステープ使用上の注意

 「はりぐすりの副作用はかぶれぐらいだ」と思われている方は多いのではないでしょうか?これは誤解です。経皮吸収型鎮痛消炎剤は内服薬として用いられている成分を皮膚から吸収させているので、れっきとした「くすり」なのです。
モーラステープの主成分であるケトプロフェンは光線過敏症を引き起こすことが知られています。光線過敏症とは、健康な皮膚では起こりにくい日光(紫外線)の量でも引き起こされる、皮膚の過敏反応の総称で、異常な日焼け症状、発疹、発赤、水疱などの症状があらわれます。予防するには、貼っている部分を紫外線から守るなどの注意が必要です。戸外に出るときは天候にかかわらず、濃い色の衣服、サポーター等を着用し貼付部を紫外線に当てないでください。またはがした後、数日から数ヶ月たったあとに発現することもあるので、当分の間注意が必要です。

2)坐剤(ボルタレン坐剤、インダシン坐剤、インデラポロン坐剤)

坐剤は、直腸で吸収され効果を発現します。一般的に消炎鎮痛薬は胃腸障害が起こりやすいので、内服薬の場合食直後の内服が望まれます。坐剤の場合、胃腸粘膜への直接刺激が少ないので、食事と関係なく投与が可能です。
坐薬は効果が強い反面、過度の体温低下・血圧低下によるショックを起こすことがあり高齢者など注意が必要です。
坐剤は、初めて使う場合、使用方法がわからないことがあるかもしれません。あるアンケートでは、坐薬を「座って飲む薬である」と答えた人もいたそうです。また、アルミニウムやプラスチックの包装から取り出さずに坐薬を使用した事例もあるそうです

坐薬の使い方

@無理をしない程度に排便をする
A手を洗う
B包装から出し、坐薬のとがった方から肛門部に挿入する
(冷蔵庫に入れて冷たくなった坐薬は軽く手で暖めたあと、包装から取り出して使用する。やわらかくなりすぎた坐薬は、冷蔵庫に5分程度戻すとよい。)
C挿入後2〜3分間はそのままの姿勢を保つ
D最後に手を洗う
 
3)塗布剤(モビラートゲル、モビラート軟膏、イドメシンコーワゲル、セクターローション)
モビラートゲル・軟膏はサリチル酸と抗炎症作用・局所疼痛抑制作用のある副腎抽出エキスなどが含まれています。イドメシンコーワゲルはNSAIDの「インドメタシン」が、セクターローションはNSAIDの「ケトプロフェン」が含まれています。
※塗り薬はすり込んだほうがほうがいいのか?
すりこむべきかどうかは、患部と塗り薬の剤形の両方から考える必要があります。まず患部については、腰痛の場合は軽くマッサージするようにといわれています。(捻挫や打ち身のような急性期に場合は軽く塗布するようにしましょう。)剤形については、ゲル剤は強くすり込むと消しゴムのかすのように基材がよれてくることがあるので、軽く塗布する程度にしましょう。
※セクターローション使用上の注意
セクターローションの成分は「ケトプロフェン」であり、モーラステープの成分と同一です。先ほど説明したような光線過敏症への注意が必要となります。

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