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日ごと暖かさの増す快い季節となりました。桜の蕾も膨らんで、いよいよ春の訪れが感じられます。
今回のテーマは 不眠症と不眠症治療薬 についてです。
2022年3月
不眠症とは夜の寝つきが悪い、眠りを維持できない、朝早く目が覚める、眠りが浅く十分眠った感じがしないなどの症状が続き、日中の眠気、注意力の散漫、疲れや種々の体調不良が起こる状態を指します。
日本においては約5人に1人が、このような不眠の症状で悩んでいるといわれています。不眠症は、小児期や青年期にはまれですが、20~30歳台に始まり、加齢とともに増加し、中年、老年になると急激に増加します。
60歳以上の方では約3人に1人が睡眠問題で悩んでいます。病院に通院している方の20人に1人が不眠のため、不眠症治療薬を服用しているのが現状です。
不眠症は大きく分けて以下の4つのタイプに分類されます。
①入眠困難
床についてもなかなか(30分~1時間以上)眠りにつけない
②中途覚醒
いったん眠りについても、夜中に何度も目が覚める
③早朝覚醒
希望する時刻、あるいは通常の2時間以上前に目が覚め、その後眠れない
④熟眠障害
眠りが浅く、睡眠時間のわりに熟睡した感じが得られない
不眠症の原因には以下のようなものが挙げられます。
①環境要因
時差ぼけ、枕の変更、暑さや寒さ、騒音、明るさなどの影響など
②身体要因
年齢、性差、痛みやかゆみ、夜間の頻尿など、加齢に伴い、不眠は多くなります。また、男性より女性の方が不眠になることが多いようです
③心の要因
悩みやイライラ、極度の緊張からの精神的ストレスなど
④生活習慣要因
アルコール、ニコチン、カフェイン等の摂取、不規則な食事、運動不足など
睡眠障害には不眠症以外にも原因となる病気があり、不眠症治療薬では改善しないものもあります。これらの特殊な睡眠障害にはそれぞれの治療法があり、通常の不眠症治療薬では治りません。
以下のような病気になると睡眠が障害されるといわれています。(※一例であり他にもあります)
■睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が何度も止まる無呼吸と呼吸が止まりかける低呼吸を繰り返す病気です。
■レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
夕方から深夜にかけて、下肢を中心として、「ムズムズする」「痛がゆい」「じっとしていると非常に不快」といった異常な感覚が出現してくる病気です。
■周期性四肢運動障害
睡眠中に片足あるいは両足の不随意運動が周期的に起こるため、頻回に脳波上の覚醒反応を生じ、夜間の不眠や日中の過眠が生じる病気です。
■レム睡眠行動障害
睡眠中に夢体験と同じ行動をとってしまう病気です
第一の変化は、高齢者では若い頃にくらべて早寝早起きになることです。これは体内時計の加齢変化によるもので、睡眠だけではなく、血圧・体温・ホルモン分泌など睡眠を支える多くの生体機能リズムが前倒しになるため起こります。
したがって、高齢者の方の早朝覚醒自体は病気ではなく自然なことなのです。
第二の変化は、睡眠自体が浅くなることです。加齢とともに、深い眠りといわれるノンレム睡眠が減り、浅い眠りといわれるレム睡眠が増えるといわれています。
そのため、尿意や少しの物音などでも何度も目が覚めてしまうようになります。
第三の変化は、睡眠時間自体が短くなることです。年齢を重ねるごとに実際に眠れる時間は短くなります。
そのため、若い頃より睡眠時間が減ることは何も不思議なことではありません。今の自分に必要な睡眠時間を確保できているのであれば、それは不眠症ではありません。不要な不眠症治療薬の使用は控えましょう。
また、特にすることがないから昼寝をする等で、1日の睡眠のリズムが崩れると夜中に眠れなくなることが多いので、日中は出来るだけ活動するように心がけましょう。
不眠症治療薬を使用する前に、まず改善出来ることを行いましょう。
■寝室の環境整備
寝室の環境を整えることは非常に大事です。防音対策、遮光カーテン等で、雑音や光を遮りましょう。 また、室温も大事なので、寝心地の良い温度を保つようにしましょう。
LEDディスプレイや照明に多く含まれているブルーライトは脳と体を活性化する働きがあります。テレビやスマホからブルーライトを就寝前に浴びてしまうと、脳が勘違いして睡眠を促すメラトニンという物質の分泌を抑えてしまい、睡眠の質が低下してしまいます。
そのため、就寝前のテレビ、スマホ、パソコン等の使用は控えましょう。
■就寝前の運動
運動をすること自体は良いことなのですが、寝る前に激しい運動をすると、身体の中心部の体温が上がってしまい、目が冴えてしまいます。もし運動をする場合は、寝る3時間前までに済ませると良いでしょう。
■就寝前の考え事
不眠症になる大きな原因の一つはストレスです。そのため、寝る前に自分の悩みと向き合ったり、考え事をするのはやめましょう。自分なりのストレス解消法を見つけることも良いと思います。
■就寝前のアルコール、ニコチン、カフェイン等の摂取
アルコールには入眠作用があるため、一見不眠症の改善に役立つように思われますが、実際は睡眠を浅くし、夜間頻尿も起きやすくなることから、中途覚醒や、早朝覚醒の原因になります。
ニコチンには覚醒、興奮作用があるため、不眠の原因となります。
カフェインは眠気を引き起こすアデノシンという物質の働きを抑えてしまい、不眠の原因となります。
また利尿作用もあるため、夜間頻尿の原因にもなります。寝る前に飲酒、タバコ、コーヒー等の摂取は控えるようにしましょう。
非薬物療法を行っても不眠が改善されない場合に不眠症治療薬の使用を検討します。近年では新しい種類の不眠症治療薬も開発され、選択肢が増えてきています。細かな分類や特徴については後述します。薬物療法を始めても、非薬物療法は継続して行いましょう。
■日中への効果の持ち越し
薬の効果が翌朝以降も持続してしまい、午前中に眠気が残ったり、ふらつきがでたりします。
■筋弛緩作用
不眠症治療薬には、筋肉を弛緩させるものもあります。
そのため、立ち上がる時に力が入らず、転倒してしまい骨折に繋がる危険性があります。
■記憶障害
薬を服用した後の記憶があいまいになったり、経験したことを忘れてしまうことがあります。
■反跳性不眠
続けて飲んでいた不眠症治療薬を突然中止したことにより、かえって不眠症状が強く出てしまうことがあります。そのため、薬をやめる場合は、少しずつ減らしていきましょう。
■依存症
薬を服用していないと落ち着かない、薬が手元にないと不安になってしまう等の、不眠症治療薬に対して精神的な依存症になることもあります。
脳の興奮を抑えるGABA(ガンマアミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを促すことにより、脳の活動を休ませて睡眠作用をもたらします。
効果が良いので、昔からよく使われていたお薬ですが、近年は認知機能低下、依存性、筋弛緩作用(非ベンゾジアゼピン系には無い)が問題視されてきており、使われる事が少なくなってきています。
薬が効き始める時間、薬の効果が続く時間により以下のように分類されます。
超短時間型や短時間型は作用時間が短く、翌朝の効果の持ち越しが少ないとされています。即効性もあるため、入眠障害の不眠症に適しています。欠点は効果が短いため、中途覚醒や早朝覚醒の不眠症には適していません。
また、依存性が起きやすく、さらに頻回使用していると同じ量では眠れなくなったりします。内服後の短期記憶障害も起きやすいといわれているので、内服後はすぐに床につきましょう。
中時間型は比較的作用時間が長く、中途覚醒や早朝覚醒の不眠症に適しています。ただし、超短時間型や短時間型のような即効性はないため、入眠障害の不眠症には適していません。効果時間が長いため、翌朝の持ち越しや日中のふらつきが起こることがあります。
ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の大きな違いは筋弛緩作用があるかないかです。筋弛緩作用があると、ふらつきや転倒を起こすことがあるので、超短時間型では筋弛緩作用がない非ベンゾジアゼピン系のお薬がおすすめです。
脳内には、メラトニンという体内時計の調節をするホルモンがあります。
この薬は、このメラトニンが作用する部分を刺激することにより、体内時計を整え、睡眠を促します。睡眠リズムを整えることで、昼夜逆転、時差ぼけの治療にも使用されます。ベンゾジアゼピン系にみられる耐性や依存性が少ないのも特徴です。弱点としては即効性がある薬ではなく、効果が出るのに2週間程度必要だといわれています。
メラトニン受容体作動薬にはロゼレムというお薬があります。
脳内には、オレキシンという覚醒を維持するホルモンがあります。
この薬は、脳内でのオレキシンの働きを弱めることにより、睡眠を促します。メラトニン受容体作動薬と違い、即効性もある程度あるのが特徴です。さらに、ベンゾジアゼピン系にみられる耐性や依存性も少ないとされています。弱点としては、悪夢をみやすいことと、眠気が残ったりすることがあります。
オレキシン受容体拮抗薬にはベルソムラとデエビゴというお薬があります。
近年ではメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬を使用することが増えてきています。
いかがでしたでしょうか?
年齢を重ねるにつれ、睡眠時間が短くなると感じられる方がよくいらっしゃるとは思いますが、それはごく自然なことなのです。睡眠にとって大事なのはまず寝やすい環境を作ることです。
もし、それでも寝られず、日中の生活に支障が出るであれば、不眠症治療薬の使用を相談しましょう。不要なお薬の使用は、認知機能の低下や転倒の危険性が増えるためできる限り控えましょう。
また、単なる不眠症ではなく、他の病気の可能性もあるため、気になる方は病院に相談しましょう。