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晴れの空に流れる雲が、秋の訪れを感じさせる季節となりました。
今回のテーマは 漢方薬 についてです。
2023年9月
漢方薬は生薬(植物の葉、茎、根などや鉱物、動物の中で薬効があるとされる一部分を加工したもの)を原料としています。
漢方薬は複数の生薬を組み合わせているものがほとんどで、さまざまな症状に効果があるとされています。漢方薬を処方する際に医師は、患者の病状(症状や訴え)や体質を重視します。そのため体質に由来する症状(月経痛や冷え性、虚弱体質)、検査に表れない不調(イライラする、憂うつ)など、通常の処方薬では治療が難しい症状に使いやすいという特徴があります。
当院でも使われている漢方についてご紹介します。
体力が充実していて、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちな方に
CMでも内臓脂肪に効く!などと紹介されることの多い漢方薬です。ダイエット目的で服用されている方がおられるかもしれませんが、体質によっては逆効果になる場合があるため注意が必要です。食欲があり、血色がよく(赤ら顔など)、便秘気味で太鼓腹の方に効果があります。熱を冷ます生薬(石膏、大黄、芒硝、連翹など)が多く含まれているので、冷え性の方には向きません。逆に、皮膚の熱を発散(麻黄、防風、荊芥)し、排膿作用(桔梗)もあるので、炎症性皮膚疾患にも使用されることがあります。
■効果
高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘、蓄膿症、湿疹・皮膚炎、吹き出物、肥満症
■成分
当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)、山梔子(サンシシ)、連翹(レンギョウ)、薄荷(ハッカ)、荊芥(ケイガイ)、防風(ボウフウ)、麻黄(マオウ)、白朮(ビャクジュツ)、桔梗(キキョウ)、黄芩(オウゴン)、甘草(カンゾウ)、石膏(セッコウ)、生姜(ショウキョウ)、大黄(ダイオウ)、無水芒硝(ムスイボウショウ)、滑石(カッセキ)
■注意
妊娠・授乳中は避けましょう。
体力中等度以下で疲れやすく汗のかきやすい傾向がある方に
いわゆる水太りの方に使用する漢方薬です。色白でぽっちゃり体系、にじみ出るような汗かきで、倦怠感が強く、足がすぐにむくんでしまうような体質の方に適した漢方薬です。体の水分を尿として出させる生薬(防已、黄耆、白朮など)に、胃腸を整える生薬(生姜、大棗など)を加えることで、汗を止め、むくみを改善して活気を出させる効果があります。防已はたまった水分による関節痛にも効果があると言われています。体重がみるみる落ちるといった効果はありませんが、体質が改善することで活動的になり、健康的な身体を取り戻すことが出来るかもしれません。
■効果
肥満に伴う関節の腫れや痛み、むくみ、多汗症、肥満症(水太り)
■成分
防已(ボウイ)、黄耆(オウギ)、白朮(ビャクジュツ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)
■注意
脂肪を燃焼させるなどのダイエット効果はありません
体力中等度以上で、のぼせ気味で顔色赤く、イライラして落ち着かない傾向のある方
なんだかイライラして、すぐ怒ったり、胸苦しくて寝られない、頭がふらふらするなどの症状はありませんか?そんな時は、血圧が高い場合があるので、お薬に頼る前にまず受診をおすすめします。漢方では、体の中にこもった熱が、上記のような症状を引き起こし、ひどいときは出血を起こすと考えます。熱を冷ます生薬(黄芩、黄連など)が様々な症状を緩和し、気分を静めてくれます。また五苓散(ごれいさん)と併用すると、二日酔いの予防や改善の効果があるとも言われています。
■効果
鼻血、不眠症、神経症、胃炎、二日酔い、めまい、動悸、更年期障害、湿疹・皮膚炎、口内炎など
■成分
黄芩(オウゴン)、山梔子(サンシシ)、黄連(オウレン)、黄柏(オウバク)
体力中等度以下でめまい、ふらつきがあり、時にのぼせや動悸がある方
めまいは漢方では体の中に水がたまって起こると考えられています。水を外に出す生薬(茯苓、白朮)は胃腸の機能を整える効果もあり、桂枝と組み合わさることでぐるぐるする気分を緩和します。ジャンプするとおなかのあたりでチャポっと音がするような方はよく効くようです。
■効果
たちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏など
■成分
茯苓(ブクリョウ)、桂皮(ケイヒ)、白朮(ビャクジュツ)、甘草(カンゾウ)
体力中等度で神経が高ぶり、怒りやすい・イライラがある方
ちょっとしたことですぐイライラしたり怒ってしまったり、小さなことが気になったりしませんか?抑肝散には、気持ちの高ぶりを抑えて血圧や耳鳴りを改善する釣藤鈎や、精神を安定させる生薬(柴胡、川芎)、イライラやのぼせを抑える当帰などが入っています。まぶたがピクピクする人にも効果があると言われています。
■効果
神経症、不眠症、小児夜泣き
■成分
蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、川芎(センキュウ)、釣藤鈎(チョウトウコウ)、当帰(トウキ)、柴胡(サイコ)、甘草(カンゾウ)
■注意
小児用量は成人用量を1として、8~15歳:1/2量、5~7歳:1/3量、2~4歳:1/6量、1歳以下:1/12量で服用
■備考
抑肝散は速く効きますが、胃もたれを招きやすいため、胃腸の弱い方には「抑肝散化陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」がおすすめ
体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩が凝り、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、時に便秘の傾向のある方
女性の更年期に頻用される漢方薬です。「逍遙」はさまよいふらふらするという意味で、この漢方が効く人は症状の訴えが多く、また内容もコロコロかわると言われています。貧血を改善する生薬(当帰、芍薬)に、血の滞りをとる牡丹皮、柴胡・当帰・薄荷が合わさることでイライラやのぼせを改善します。山梔子は熱を冷まします。足は冷えているが、頭はのぼせる状態に良く効きます。のぼせがあれば、抑肝散よりこちらが効くかもしれませんね。
■効果
冷え性、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、不眠症
■成分
当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、柴胡(サイコ)、牡丹皮(ボタンピ)、山梔子(サンシシ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、薄荷(ハッカ)
冒頭で医師が漢方を処方する際、病状や体質を重視すると書きましたが、病気に対して体がどれだけ抵抗できるかという考え方は非常に重要です。風邪やインフルエンザに使われる葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)は、体温を上げてウイルスを排除し、汗を出させて熱を下げる生薬が入っていますが、長引く症状で体力が落ちた人や、やせて体力がない高齢者などが服用すると、漢方薬の効果が出にくいばかりか、副作用が出てしまう可能性があります。ちなみに、体力がない人の風邪薬としては、桂枝湯(けいしとう)や香蘇散(こうそさん)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などが使用されることがあります。また、風邪症状が長引く場合は竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)や小柴胡湯(しょうさいことう※インターフェロン治療中の方は服用できません)などが処方されます。
症状に対して使用されることが多い漢方薬ですが、このように体力や体質、病気になった時期なども考慮する必要があり、市販薬などを購入する際は注意が必要です。
体力がある人(病気に対し抵抗力がある人)
漢方では「実証」と言います。
→筋肉質、声が大きい、冷たい飲み物を好む、暑がり、食欲旺盛、急速に症状が現れる、血色がいいなど
体力がない人(病気に対し抵抗力の低い人)
漢方では「虚証」と言います。
→華奢、痩せすぎ、筋肉がない、声が小さい、寒がり、疲れやすい、食が細い、胃腸が弱い、顔色が悪い・白い、風邪をひきやすい
※やせていても実証の方がおられるように、あげている体質のすべてがあてはまるわけではありません
漢方薬は効き目が穏やかで副作用はほとんどないと思われていますが、医薬品ですので、他の薬と同じように注意すべき副作用があります。
食欲不振や胃もたれなどは、入っている生薬(地黄、麻黄、当帰など)によっては起こりやすいものがあり、食後に飲む、水の量を増やすなどの対応で改善することが多いです。
生薬によっては他の薬と同様にアレルギー症状を引き起こす場合があります。湿疹がでたら、漢方名だけでなくメーカー名や生薬名をお薬手帳に書いておきましょう。
漢方薬によっては長期で服用する場合がありますが、数年単位で服用すると重篤な副作用が出るものがあります。医師が処方する場合は定期的にチェックをしていますが、医師の受診や健康診断なしで市販薬などを続けると副作用が見落とされる可能性があります。
また個人の判断で複数の漢方薬を飲むと、一部の生薬が重複してしまい、生薬の一日服用量を超えてしまうことがあるため、必ず医師や薬剤師に相談してください。
一ヶ月程度服用しても効果が発揮されない場合も医師や薬剤師へ相談しましょう。副作用を防ぐためには自己判断で服用する量を調節したりせず、医師の指示通りに服用することが大切です。