土谷総合病院

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診療科・各部門

Introduction of Department

くすりの窓

風にそよぐ木々の緑もまぶしい季節となりました。

今回のテーマは ドラッグデリバリーシステム(DDS) についてです。

 

2024年5月

DDSとは?

「飲むとすぐに体の中から無くなる薬」や「なかなか吸収しない薬」など、薬にはそれぞれ性質があります。必要最低限の量や回数で、十分な効果が欲しいですよね。そこで、ドラッグ(薬)デリバリー(お届け)システム(仕組み)を考えることが重要になります。DDSを効率的に運用することにより、「必要な薬を必要な時間、適切な場所」に届けることが可能になります。

薬を内服したときの主な流れを下に示します。

薬を飲む → を通過 → で吸収 → 肝臓で代謝 → 血液 → 身体の組織(患部) → 肝臓で再び代謝 → 腎臓で処理 → 尿と一緒に体外へ

特に重要な働きをするのが肝臓です。肝臓は薬を代謝する機能を持っています。多くの薬は代謝によって形が変わり、 作用を失います。1回、2回と肝臓を何回も通るたびに代謝を受け最後には尿や便、汗などと一緒に体外へ排泄されます。

体内のくすりの流れ

DDSの種類

DDSは、目的ごとに主に3つに分けることができます。

DDSの種類
①放出制御

■徐放製剤化

薬効成分がゆっくり溶け出す(徐放)ように工夫がなされた薬です。少しずつ薬が溶け出していくため、1日の血中薬物濃度を一定にすることができます。これによって、服用回数を減らすことが出来ますし、効き目が強くなったり弱くなったりするのを抑えることで副作用の軽減にも繋げることが出来ます。

薬の効果は、薬の血液中の濃度で左右します。濃度が高くなると副作用が出やすくなる毒性域、 低すぎると効果がでない無効域になります。ちょうどいい所が有効域(治療域)です(下図)。

血液中の薬物濃度

速効性製剤は飲むとすぐに血中濃度が高くなりますが、すぐに低くなり効果がなくなります。効果を維持したい時は頻繁に飲む必要がありますが、副作用がでたり、効果が感じられない時間帯が発生する可能性があります。

これに対し、徐放性製剤はゆっくり有効成分が溶け出していくため、血中薬物濃度を平坦にすることができます。そのため、副作用の発生を抑えたり、効果がない時間を減らすことが出来ます。

徐放性製剤って、どんな薬があるの?

■腸溶性製剤

食べ物と同じく、飲んだ薬も胃酸で分解されます。胃酸によって分解されると、有効成分まで分解されてしまい、 薬としての効果が消失してしまいます。そこで、胃では溶けずに腸に達して初めて薬が溶け出すように工夫がなされた薬が腸溶性製剤です。また、分解された成分による胃障害などの副作用を軽減できる利点もあります。

徐放製剤 腸溶性製剤 は、ゆっくり溶ける・腸で溶けるなどの工夫がされているため、自己判断でかみ砕いたり粉砕しないようにしましょう!

②吸収改善

■プロドラッグ化

プロ(前の)ドラッグ(薬)とは、薬として作用する前段階の状態の薬の意味で、薬を飲んだ後に肝臓などで代謝されることで、初めて効果を表す薬を指します。代謝を受けていない状態だと、プロドラッグは薬としての作用を示しません。

薬の中には、吸収が悪いものがあります。腸からの吸収が悪いと、薬がうまく作用できません。また、吸収が悪いと投与量を増やす必要があり、また体重や年齢などで個別に量を考える必要が出てきます。

そこで、有効成分自体の構造を変える(=プロドラッグ化)ことで、腸から薬を吸収しやすくし、効率よく体内へ吸収された後に、代謝されて薬として作用を発揮します。

プロドラッグ化の例:脂質異常症治療薬(シンバスタチン)

■投与経路の変更

多くの薬は口から服用します。口から投与された薬は腸から吸収され、全身を巡ります。しかし、全ての薬が腸から吸収されるとは限らず、腸などの消化管は肺や鼻に比べて薬が吸収されにくくなっています。例えば、高分子の薬は腸から吸収されにくいですが、鼻からであれば吸収されます。このように、腸から投与すると全く効果のない薬であっても、投与経路を変えると効果を発揮するようになる薬も存在します。

③標的指向化

■薬剤の修飾

腸から吸収された薬は血流に乗って全身を巡り、体内のあらゆる組織へ分布します。ただし、実際に薬として効果を現す場合は特定の組織に作用するだけで十分な例が多いです。治療目的以外の部位にまで薬が分布すると、副作用の原因となります。そこで、目的とする標的部位にのみ薬を届けるようにすれば、副作用を軽減し、より薬の効果を高めることができます。

どんな薬があるの?

■目的部位に直接投与

通常、薬を経口や注射で投与すると、有効成分が全身を巡ることで様々な臓器に作用しますが、目的部位に直接投与できる場合があります。例えば、吸入薬です。

吸入薬は、薬を口から吸い込むことによって肺や気管支に直接薬を届けることが出来ます。ステロイドが入った吸入薬の場合、気管支や肺だけに作用するため、副作用を軽減することが出来ます。

工夫が詰まってるっ

あの小さな薬の中には治療効果を高めたり副作用を軽減させるための多くの工夫が詰まっているんですね。