土谷総合病院

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診療科・各部門

Introduction of Department

くすりの窓

暑い日が続いていますね。
熱中症には十分お気を付けください!

今回のテーマは 災害医療支援 です。

 

2024年7月

はじめに

今年の1月1日に能登半島地震が起こり、石川県や富山県では甚大な被害を被りました。地震で犠牲になられた方々に対しご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の方々に心よりお悔やみ申し上げます。また、被災された方々へお見舞いを申し上げます。

私たち病院薬剤師が所属している日本病院薬剤師会では、1月2日に日本病院薬剤師会災害医療支援本部を設置し、3月28日に医療支援活動を終了するまで、薬剤師として災害医療に携わる活動を行いました。今回は、災害時の薬剤師の活動と、災害時に準備しておきたいお薬手帳について紹介します。

日本の災害医療支援

災地では災害発生直後より様々な医療支援が必要となります。日本においては、DMAT(災害派遣医療チーム Disaster Medical Assistance Team)やJMAT(日本医師会災害医療チーム Japan Medical Association Team)がよく知られていますね。他にも日本赤十字社の救護班(日赤救護班)やDPAT(災害派遣精神医療チーム)などがあります。薬剤師はそれらのチームに参加したり、災害登録派遣薬剤師や災害ボランティア薬剤師として参加しています。この中でDMATについて紹介します。

DMATとは

DMATは「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義され、1995年の阪神・淡路大震災後に発足しました。DMAT1隊の構成は、医師1名、看護師2名、業務調整員1名の4名を基本としていますが、この業務調整員に薬剤師が含まれます。都道府県や厚生労働省などから派遣要請を受けると、隊員は所属するDMAT指定医療機関から派遣され活動します。

活動内容
トリアージタッグ

被災地では、隊員は自力で移動し、医療活動、情報収集、搬送などを行います。医療活動には緊急治療や「がれきの下の医療」、トリアージなどが含まれます。「がれきの下の医療」は、倒壊した家屋や岩などに挟まれた人を救出する医療を指し、実際、2005年に起きたJR福知山線脱線事故ではDMATが大破した電車のなかで治療を行い、多くの命を救いました。また、トリアージとは傷病の重症度・緊急度から治療優先度を決定することを言い、現場でほかのチームや医療従事者などと判断情報を共有するために優先度を色で認識するトリアージタッグを利用します。

DMAT隊員になるには

厚生労働省等が実施する「日本DMAT隊員養成研修」を修了し、又はそれと同等の学識・技能を有する者として厚生労働省から認められ、厚生労働省に登録された者がDMAT登録者となります。DMAT登録者には、DMAT隊員証が交付され、災害の急性期にDMATとして派遣される資格を有します。通常時はDMAT指定医療機関に所属し、研修や訓練を行っています。

災害時の薬剤師の活動

災害登録派遣薬剤師

災害登録派遣薬剤師とは、DMAT活動後速やかに被災地に薬剤師を派遣し、被災地の情報収集及び各施設の業務整備等を行うために、予め各都道府県から選出し、災害医療を習得した薬剤師を言います。薬剤師としての実務経験が5年以上で、現地での活動に耐えることが出来る健康状態にあり、派遣要請があれば速やかに活動がおこなえるなど条件があります。派遣期間は1~2週間程度です。現地では、被災・交通状況の情報収集や、派遣される医療施設での業務内容の整理などを行いますが、状況により迅速で柔軟な対応が求められます。

災害ボランティア薬剤師

災害ボランティア薬剤師とは、災害中~後期に被災地医療施設のニーズに合った薬剤師を派遣するために、病院薬剤師会ホームページで募集を行い、参加登録した薬剤師を言います。参加条件は災害登録派遣薬剤師よりはゆるいですが、費用はすべて自己負担となります。

活動内容
薬剤師の活動

医療施設や医療救護所、避難所などでは患者へ薬を渡したり説明したりする他、注射薬の無菌的な調製(2種類以上の注射薬を混合するなど)、医師の支援(患者の常用薬を鑑別したり、医薬品についての情報を医師へ提供し処方を手助けするなど)などを行います。お薬手帳の確認や記載も行います。また医薬品集積所では全国から運ばれてきた医薬品の受け入れや払い出し、管理(先発医薬品やジェネリック医薬品の成分や薬効ごとの整理)なども行っています。

災害への備えについて

災害時には次のような事態が起こる可能性があります。

  • 災害直後は救命救急が最優先され、慢性疾患などの通常診療は後になる
  • 病院、薬局の薬の備蓄がなくなる
  • 避難生活が続くと、手持ちの薬がなくなる
  • 自分がいつも飲んでいる薬の種類・名前が分からない、病院・薬局でも確認ができない
  • 季節によって、避難所等で感染症が拡がる
対策① 数日分の予備薬を持ち出せるようにしておく

慢性疾患などでいつも飲んでいる薬がある場合には、3日間〜1週間分の予備薬をいつも用意しておき、すぐに持ち出せるようにしておくことをおすすめします。薬には期限がありますので、常に新しいものと交換するようにしましょう。

対策② お薬手帳を携帯する

災害時に備えて、今飲んでいる薬、過去に飲んできた薬、副作用歴やアレルギー歴などがかかれたお薬手帳を携帯しておくことはとても重要です。東日本大震災の際、津波で医療機関や薬局が機能しなくなり、薬歴情報や処方歴も失われました。情報がない中での診察は医師や患者にとって大きな負担となり、診察時間もかかります。お薬手帳があればスムーズに処方ができ、医師にも患者にも大きなメリットとなります。また災害時は医療者側の交代が激しいため、お薬手帳が重要な情報共有のツールとしても活用されます。

大きな災害が起こると、病院や薬局で蓄えられている情報が失われてしまうことがあります。医薬品には様々な種類があり、「血圧の薬」や「心臓の薬」という情報だけでは正しい薬を選んで処方することはできません。自分の身を守るためにも、日頃から災害に備え、予備薬やお薬手帳の準備をしておきましょう。

予備薬やお薬手帳の準備

~コラム~ モバイルファーマシー

県内の調剤薬局が所属する広島県薬剤師会では、モバイルファーマシー(移動薬局)を導入しています。東日本大震災を契機に宮城県で発明され、全国で導入が進んでいます。今回の能登半島地震でも各地から派遣され、広島県では1月12日に出発し現地で支援活動を行いました。キャンピングカーをベースにしており発電機やソーラーパネルを設置、水タンクやトイレ、無線機などの設備があり長期的な活動も可能です。車内には医薬品倉庫だけではなく調剤棚や注射薬の無菌調製ができるクリーンベンチ、粉薬の分包機などを備え、インフラの状況に関わらず自立的に調剤作業や薬の交付がおこなえます。薬のお渡しは車外で行いますが、車外にオーニング(日よけ)と開放型テントを組み合わせてプライバシールームを展開すると、天候が悪いときでも安全に薬の交付や服薬指導を行うことが出来ます。

モバイルファーマシー