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土谷総合病院

土谷総合病院 薬剤部 くすりの窓

日毎に涼しくなってきましたね。

食欲の秋とはいえ、食べすぎには十分注意したいものですね!

今回のテーマは、ピロリ菌です。

2006年9月

ピロリ菌とは?

へリコバクター・ピロリという名前を聞いたことがありますか?

日本人にはおなじみの病気、胃・十二指腸潰瘍の発生に深く関与しているといわれる細菌です。

これまで、胃・十二指腸潰瘍はストレスによる病気、というイメージがあったのですが、実は細菌の感染が関係していることがわかってきたのです。ストレスが胃にはよくないのは事実ですが、ストレスで胃炎になることはあっても、ピロリ菌に感染していなければ、潰瘍にまで進展することはほとんどないことがわかりました。

ピロリ菌発見の歴史

胃の中には、食べ物を消化するための強い酸(胃酸)が分泌されていて、細菌はとても住めない環境だと長い間考えられていました。

ところが1983 年にオーストラリアのウォーレンとマーシャルという2人の医学者が、胃の粘膜に住み着いている細菌を取り出して、培養することに成功しました。らせん形(ヘリカル)をした細菌(バクテリア)で、胃の出口付近(幽門:ピロルス)で発見されたので、ヘリコバクター・ピロリと名付けられました。一般的には、ピロリ菌と呼ばれています。

ウォーレンとマーシャルはこのピロリ菌が胃炎や胃潰瘍の原因ではないかと考えました。しかし最初はなかなか信用されませんでした。

そこで、1984年マーシャルはなんと自ら培養したピロリ菌を飲み込むという実験を行ったのです。10日目に胃の組織を取って調べると、見事(?)急性胃炎を起こしており、そこにはピロリ菌が存在していました。 除菌するまでの14日間、吐き気、頭痛、口臭などの症状があったと報告されています。

しかし、なんとも恐ろしいことをするものですね。

でもこのおかげで、ピロリ菌は強烈な酸のある胃の中に住み、さまざまな胃の病気を引き起こす細菌であることがあばき出されたのです。

それからというもの、全世界で急速にピロリ菌の研究が進み、今では胃炎や胃潰瘍はもちろん、胃癌やマルトリンパ腫(悪性度の低い胃悪性リンパ腫)などの成因にもピロリ菌が深くかかわっていることがわかってきました。

なぜ強酸性の胃の中でも生きられるの?

胃の酸度はpH1〜2です。pHというのは酸性かアルカリ性かの度合いを表す単位で数値が小さいほど酸性の度合いが強くなります。ピロリ菌が活動するのに最適なpHは6〜7で、4以下では、ピロリ菌は生きられません。ではなぜピロリ菌は胃の中で生きられるのでしょうか?

秘密はピロリ菌の持つウレアーゼという酵素です。この酵素によって胃の中の尿素という物質からアンモニアを作り出すのです。アンモニアはアルカリ性です。このアンモニアが胃酸を中和するのです。

そのようにしてピロリ菌は自分の周りに中性に近い環境を自分で作り出すことができるので、強酸性の胃の中でも生きていられるのです。

ピロリ菌の感染経路は?

くわしい感染経路はわかっていませんが、マーシャルの実験からもわかるように、おそらく口を経由して感染するものと思われています。

感染するのは通常子供の頃で、大人になってからは感染することはほとんど無いようです。発展途上国など衛生状態が良くない環境で感染率が高く、先進国では感染率が低いと言われています。日本では戦中戦後間もないころの衛生状態が悪いころに生まれた人の感染率が高く、40才以上の人は7〜8割がピロリ菌陽性と言われています。

しかし、たとえ感染しても大半は病気にはならず、また生活環境の進歩、生活習慣の変化とともにこの菌を持っている人は減少しているのです。

ピロリ菌に感染しているかはどうやって調べるの?

ピロリ菌の検査には、大きくわけて、内視鏡を使う方法と使わない方法があります。

潰瘍の疑いがある場合、内視鏡で胃の粘膜を観察するのですが、このとき同時に胃粘膜の一部を採取してピロリ菌の検査を行うことができます。具体的には、培養を行ったり(培養検査)、顕微鏡でピロリ菌がいるかどうかを調べます(組織鏡検)。また、ピロリ菌が分泌する酵素の有無を調べる、迅速ウレアーゼ試験という方法もあります。

一方で、内視鏡を使用しない検査法に抗体検査があります。血液や尿などを採取し、ピロリ菌に対抗してつくられる抗体の有無を調べる方法です。他にも、精度が高く簡便で、痛みのない尿素呼気試験という検査法があります

ピロリ菌の除菌療法

欧米ではかなり以前から、胃・十二指腸潰瘍の治療には抗生物質を組み合わせた除菌療法が常識となっていました。日本でもようやく2000年11月より除菌療法が保険適応になりました。

ピロリ菌の除菌には、2 種類の抗生物質とプロトンポンプ阻害薬という胃酸の分泌を抑える薬を用います。ピロリ菌を除菌するためには抗生物質だけでは不十分で、プロトンポンプ阻害薬を含めた3剤を併用して初めて、ピロリ菌の除菌が可能になります。いずれも経口薬で、1日2回の服用を1週間続けます。ピロリ菌を集中的にたたくことで、約90%の患者さんでは除菌に成功します。

副作用などは、1割程度の患者さんで、軽い下痢が起こることはあります。ただ、これら3剤はいずれも従来から使われている薬で、投与期間も1週間と限定されていますので、それほど心配する必要はないでしょう。しかし、副作用が出たときには速やかに主治医に相談しましょう。

除菌の治療は中途半端でやめたりすると、ピロリ菌が薬に対して耐性をもち、次に除菌しようと思っても薬が効かなくなるおそれがありますので、必ず医師の指示通りに薬を飲むことが必要です。

また、除菌治療は1週間ほどで終わりますが、その後も潰瘍の治療は一定の期間必要になることがあります。その後検査を行い、ピロリ菌の消失が確認されれば、治療は終了です。再発もほとんど起こりません。

ただし、抗生物質(ペニシリン)を使用しますので、ペニシリンアレルギーなどの薬剤アレルギーのある方は除菌できません。

手術で胃を切り取っていた時代からみれば、強力な胃酸分泌抑制薬の登場で潰瘍が治るようになっただけでも大きな進歩でしたが、患者さんは再発予防のために長期にわたって薬を飲み続けなければなりませんでした。しかし、ピロリ菌の除菌療法によって、一度潰瘍治療が終了すれば、患者さんは再発の不安からも開放されるようになったわけです。

当院採用の薬にもピロリ菌の除菌の薬でランサップという薬があります。

従来からある薬を、ピロリ菌除菌のためだけに使いやすくパッケージしたものです。1日1シートで、1週間分の7シートが1つの包みになっています。1シートは朝晩で半分に分かれていて、飲む薬を間違えないように封入されています。これなら3種類の薬でも間違えずにきちんと服用できますね。

どういう人が除菌した方が良いの?

先程書いたように、日本人の40 才以上は7〜8割の人がピロリ菌をもっているわけですが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍をくり返す人は、まずピロリ菌が原因なので、除菌治療を受けたほうが良いでしょう。ピロリ菌と胃癌とは深く関係しているといわれていますが、全ての人が胃癌になるわけではなく、むしろならない人の方が多いので、慌てて除菌をする必要はありません。ただ胃の悪性リンパ腫の一種であるマルトリンパ腫の場合は除菌によって改善しますので、この場合は専門の医師に相談されたほうが良いでしょう。

いずれにせよ現在日本では胃・十二指腸潰瘍しか除菌の保険適応がありません。

これまでの研究で胃・十二指腸潰瘍のすべてが解決したわけではありません。潰瘍の原因は、ピロリ菌以外でもアスピリンなどの消炎鎮痛剤などが知られています。

また、ピロリ菌の感染経路についても十分に証明されていません。ピロリ菌については現在も世界中でいろいろな研究が進められています。

もし、胃・十二指腸潰瘍でお悩みの方は、一度主治医にピロリ菌の相談をしてみるのもいいかもしれませんね。