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土谷総合病院

当院でのUAE(子宮動脈塞栓術)の実施方針

当院倫理委員会提出資料より抜粋改変していますので語尾には不自然な点がありますがご容赦下さい

土谷総合病院 放射線科・産婦人科
2003年7月

1.診療計画内容

子宮筋腫あるいは子宮腺筋症の治療としての、子宮動脈塞栓術(UAE)の導入

2.子宮筋腫の患者数と症状について

40歳以上の女性の20〜50%が罹患、症状については子宮筋腫の発生場所により無症状から極度の月経痛、過多月経、腰痛、不妊などまで様々であり、子宮腺筋症については耐え難い月経困難症がみられる。

3.子宮筋腫の一般的な治療法

  • 手術による子宮筋腫核出術、子宮筋腫を含めて子宮全摘出術
  • 手術方法による差として、開腹による腹式摘出術、腟式摘出術、腹腔鏡下子宮全摘出術、腹腔鏡下子宮筋腫核出術
  • 非手術法として、LHRh analogue剤による一時的子宮筋腫の縮小あるいは早期閉経の招来
  • 子宮筋腫による症状を軽減するための漢方療法、貧血に対する鉄剤処方、月経痛に対する鎮痛剤処方などの対症療法

4.子宮腺筋症の一般的な治療法

  • 手術による子宮全摘術
  • LHRh療法
  • 症状軽減のための漢方療法、鎮痛剤による対症療法

5.子宮筋腫に対する治療法としてUAEが出てきた背景

  • 手術を受けたくないという患者の希望
  • 内科的治療法では再発が多い
  • 患者側に手術に持ち込めない合併症がある
  • 早期社会復帰が可能である(子宮全摘術では術後一ヶ月の安静を求められる)

6.UAEの簡単な歴史

子宮動脈塞栓術は、従来、分娩後の弛緩出血、頚管妊娠などの産科出血、子宮動静脈奇形、外傷、悪性腫瘍に関連した出血などが適応とされ、手技的にはすでに確立されている。1980年後半から1990年前半にフランスのRavinaが子宮筋腫の核出術や子宮全摘出術を行う前に、術中出血の減少を目的に行ったところ、UAE後には子宮筋腫に由来する症状が改善すると同時に、子宮筋腫も縮小する事が発見された。以来彼らはUAEを子宮筋腫の根治治療として行い、その治療成績を1995年にLansetに発表して以来、欧米を中心に普及し、現在では安全・有効・低侵襲な治療法として世界中で行われている。また、手術による治療方法しか無い子宮腺筋症の子宮温存治療としても最近では行われ始めている

7.UAEの機序

子宮筋腫の栄養血管である動脈を塞栓物質で満たし、血流を遮断することにより子宮筋腫の壊死をもたらして筋腫核の縮小を狙う。(本来の子宮筋層は後述の様に二重血管支配を受けているが、子宮筋腫はその栄養血管が一本であることが多く、手術時の核出術での止血も容易である。また、子宮筋腫は良性腫瘍であり、一般的に腫瘍は血流が豊富であることも知られ、血流減少による影響をより受けやすい)

8.子宮動脈塞栓術の基礎になる解剖

宮、卵巣、卵管は子宮動脈と卵巣動脈より二重の血流供給を受ける。
卵巣動脈は腹大動脈の前面から出て卵巣に分布する。
子宮は腹大動脈、総腸骨動脈、内腸骨動脈、子宮動脈の支配にある。

9.日本や外国でのUAEの施行例(文献などの報告から)

2001年9月までに約700人という報告有り。ある調査によれば2000年10月までに世界の18カ国で10000人以上の女性が本治療を受けたとされる。

10.適応症例

  • 子宮筋腫による臨床症状があり、対症療法で制御ができない
  • 子宮癌検診が陰性である
  • 妊娠をしていない
  • 閉経前である
  • 外科的治療を希望しない

11.適応外症例

  • 子宮筋腫による症状が無い
  • 閉経後の女性
  • 骨盤内に感染症が存在する
  • 悪性腫瘍が存在し、あるいは悪性腫瘍が強く疑われる場合
  • ヨード造影剤の重篤なアレルギーがある場合

12.適応には、より一層の慎重な配慮が必要な症例

  • 子宮筋腫の核出手術は拒否するも、将来の妊娠・出産を希望しているもの
  • LHRh療法後3ヶ月以内の場合
  • 子宮腺筋症であり、手術以外の選択肢が無いもの

13.術前評価(外来で行われるこれらの検査で適応の有無を判定します)

  • 問診:既往歴、治療歴、現在の症状、現在の薬物治療、患者の希望
  • 婦人科診察:内診、子宮頚癌検診、子宮内膜生検あるいは細胞診、骨盤内感染症の否定
  • 画像診断:超音波断層装置やMRIによる子宮筋腫の数・大きさ・性状、子宮の大きさ、子宮腺筋症の合併の有無、附属器病変、隣接臓器(膀胱、直腸)との関係
  • 血液検査:CBC、生化学検査、感染症、FSH、E2、CRP

14.インフォームドコンセントの内容

  • 診断、子宮筋腫の部位・大きさ・性状、症状の種類とその原因、子宮の悪性腫瘍の説明
  • 有効な治療の選択肢とその長所・短所
  • 動脈塞栓術の手技、塞栓物質、手技的な成功率と合併症、期待できる治療効果、動脈塞栓術による合併症・副作用の種類と確率、術後の疼痛に対する鎮痛方法とリスク、術後管理の方法、動脈塞栓術後の妊孕性、当院の実績、予想される入院期間、社会復帰されるまでの期間、外来での経過観察・検診の計画、予想される医療費(現時点では保険適応がありません)

15.手技

橈骨動脈・上腕動脈あるいは大腿動脈からカテーテルを大動脈分岐部に留置して骨盤動脈造影を行い、子宮動脈を同定後、カテーテルを子宮動脈に挿入し、塞栓物質を注入する。子宮動脈は2本あるので対側も同様に行う。ただし、子宮筋腫の位置、栄養血管の状態によっては子宮動脈以外の血管を使っての塞栓が必要となる場合がある。塞栓終了後は子宮動脈造影、内腸骨造影、大動脈造影のいずれかで確認する。使用造影剤は熱感の最も少ないVisipaque320(第一製薬)を使用しています。
(この薬は、現在の保険適応は四肢血管に限られています。熱感が少ないことが特徴ですが、使用24〜48時間後に発疹などが発生する、遅発性副作用の頻度が他の造影剤に比しやや高いとされています。)

16.塞栓物質

  • polyvinyl alcohol(PVA):永久塞栓物質であり、塞栓した血管内に永久的に残存する
  • gelatin spongeはおよそ一ヶ月で吸収され体内より完全に消失する短期塞栓物質である

※1の物質はアメリカでは汎用されていますが、日本では発売されていません。2については血管塞栓用物質として発売されているわけではなく、手術用止血剤として販売されています。1,2とも血管塞栓用物質としては未認可です。しかし、2は肝動脈塞栓術の塞栓物質として広く使用されています。当院では2を使用しています。

17.効果 (文献からの抜粋で当院での成績ではありません)

筋腫の体積は、平均で40〜70%の縮小率。早期退院・早期社会復帰が可能で完全に元の体に戻るのは、大半の女性で10〜14日とされている。症状の改善率は90%以上、筋腫の体積の縮小率は57%(4ヶ月)〜69%(1年)、子宮の体積の縮小率は40%(4ヶ月) 〜61%(1年)、患者の満足度は90%以上であるとの報告がある。子宮腺筋症については、効果がないとする報告があるが、逆に効果があったとする報告もある。

18.UAEを行う場合の医療サービス

UAEの適応となる患者の選定は、主に産婦人科により行いますので、まず当院産婦人科を受診下さい。入院病棟は産婦人科病棟、UAEの施行技術者は放射線科医師、術前・術後管理は産婦人科・放射線科共同で対応します。退院後の管理は主に産婦人科がおこないます。

19.UAEの副作用・合併症 (文献からの抜粋で当院での成績ではありません)

  • 疼痛:術直後から1〜2時間続く疼痛が最も強く、およそ6〜12時間続くため、麻薬によるコントロールをおこないます。PCAポンプ(patient- controlled analgesic pump:バクスターインフューザー)、あるいはシリンジポンプに塩酸モルヒネ40mg,ドロペリドール5mgを生理食塩水にて希釈し20mlとして、 0.5ml/hrにて皮下投与を塞栓術開始2時間前より行う。疼痛時はボルタレン座薬、ロキソニン錠を併用しています。硬膜外麻酔は使用していません。以後は周期的な軽度から中等度の下腹部痛がおよそ平均1週間程度(数日〜数週間)は続くようです
  • 卵巣への被曝線量:平均10〜20cGyと報告されており、これは母子ともに遺伝学的に問題にならない量とされています
  • 死亡:死亡率は1/3000とされる。(単純子宮摘出術の死亡率は1/1000)イギリスでは術後3週間後に感染・敗血症で死亡、イタリアでは術後翌日に肺塞栓による死亡がある
  • 感染症:発生率1%。抗生物質の投与により治癒するが、これで制御できなければ子宮全摘出術が必要となることがあります。感染症の内容は、術後数週間以内に生じる子宮内膜炎、附属器炎と、それ以降に生じるpost embolization syndromeとしての遅発性の感染症がある。後者は比較的大きな粘膜下筋腫が子宮内腔に脱落して排泄されなかったり、これが子宮頚管を閉塞した場合に生じる。この場合、D&Cあるいは子宮鏡により安全に切除できる。術後数日以降増強する下腹部痛と悪臭のある帯下が典型的な症状であり、これを見逃さないことが大切である。そのためにも術前の画像診断で子宮筋腫の局在を調べることが必要である
  • 卵巣機能不全:その確率は1〜14%とされ、平均数%である。その大半は比較的更年期に近い45歳以上と報告されているが、それ以下の女性でも生じうる
  • 下肢静脈血栓症・肺梗塞:大腿動脈法を使用した血管造影による希な合併症であるが、回避するために穿刺部の圧迫を最小限にすること、早期離床の他に、フロートロンによる間欠的下肢の圧迫術を行う。また、輸液による予防も行う
  • Nontarget organ embolization:術中に塞栓物質を内腸骨動脈の分枝へ逆流させることで生じる*坐骨神経障害、膀胱損傷、直腸損傷)。また、子宮動脈・卵巣動脈の吻合枝を介して逆行性に卵巣動脈を加圧して塞栓下場合には卵巣損傷が生じる。これらを避けるために血管造影。塞栓術の注意深い手技が必要である
  • 非イオン性ヨード造影剤等薬剤によるアレルギー
  • 穿刺部の血腫、場合によっては偽性動脈瘤の形成、穿刺血管の狭窄閉塞
  • post embolization syndrome:術後の腹痛、発熱、吐き気・嘔吐、全身倦怠、食欲不振、白血球上昇、炎症反応上昇が認められる。腹痛、発熱の持続期間は数日から2週間続くこともあるが、個人差があり非ステロイド系の消炎・鎮痛剤で軽快し一過性である
  • 帯下:術後1週間以上は茶色・赤色の微量の帯下が認められるが一過性であり、特別な処置は不要である
  • 筋腫の経腟的排出:3〜7%程度で梗塞・壊死になった粘膜下筋腫の一部が排出される

20.治療後の子宮筋腫の運命

病理組織学的にはヒアリン変性、無菌性の梗塞壊死であり、体内に残しても問題無い。粘膜下筋腫については、壊死に陥った筋腫核が経腟的に排出する。

21.入院期間

基本的には3泊4日を予定し、以下の3パターンを考えています。

  • 木曜日午後入院、金曜日午前 UAE施行、日曜日午前退院
  • 月曜日午後入院、火曜日午前 UAE施行、木曜日午前退院
  • 日曜日午後入院、月曜日午後 UAE施行、水曜日午前退院